1:ラストゲーム
「時間は……残り30秒!」
体育館に響いたコーチの声が、熱を帯びた空気をさらに高ぶらせる。
俺――**遥**は、汗で滑る手でボールをキープした。
スコアは72対74。俺たちクラブチーム『レイヴンズ』は2点ビハインド。
中学最後の公式戦、県大会準決勝。これが、俺たちの“ラストゲーム”。
「遥、任せる!」
トップにいた俺に声をかけてきたのは、海斗。3Pだけは驚異的に入る、俺の相棒。ただし、パスもドリブルもディフェンスも苦手。言っちゃ悪いが、使いどころは限られてる。
「海斗、コーナー張っとけ!」
「おう、信じてるぞ!」
俺はドリブルを刻みながら、残りの仲間の位置を把握する。
左ウイングにいるのは、SFの陸。ドリブルスキルは一級品。
だが、パスは出さないし、プレーは常に自己中。チームの爆弾みたいなやつだ。
ポストにはセンターの陽翔。183cmと高身長だが、線が細くてフィジカルは弱い。それでも、ポストからのフックシュートは正確無比。使いどころ次第では、相手の脅威になれる。
もう一人、フォワードの優斗。180cmで全体的にバランスがいい。走れるし守れるし、堅実な選手。でも爆発力がない。**勝てるチームに必要な”地味な柱”**だ。
コートの向こうでは、相手校の**エース・新垣**がこちらを見て構えている。
身長185cm、筋肉の塊みたいな男。有名私立校への進学が内定済みの怪物。こいつに負けたら悔いが残る。
「行くぞ……!」
俺は一瞬ドリブルを止め、右手でサインを出す。全員が理解した。
陸がしぶしぶトップに上がり、俺にスクリーン。すかさず右へドライブ。
――からの、ノールックパス。
「今だ、海斗!」
海斗がコーナーからシュート。
放物線を描いたボールが、リングを通過――
75対74。逆転。
「ナイス!」
「まだ終わってねぇぞ!」
歓声と同時に、俺たちはすぐさまディフェンスへ切り替えた。残り12秒。
「優斗! 陸! スイッチ準備!」
「了解!」
新垣がボールを受ける。陽翔が体を寄せて必死に抑える。
――打たせるな!
放たれたシュートはリングに嫌われ、ボールが跳ね上がる。
陸がなんとかもぎ取って、俺へパス――
ブザーが鳴る。
勝った――。
⸻
ロッカールームは静まり返っていた。
汗をぬぐいながら、誰もが何かを噛みしめるように水を飲んでいた。
勝った嬉しさ。
でも、これが最後の試合だってことも、全員がわかっていた。
「なあ、おまえら……」
俺が口を開こうとした瞬間、海斗が先に言った。
「高校でもさ、また一緒にやんね?」
その言葉に、皆が顔を上げた。
「……え? お前、強豪から推薦来てたろ?」
「落ちた。3Pしかできない奴は要らねぇってさ」
苦笑する海斗。俺も同じだった。
165cmのPGなんて、強豪校じゃまず相手にされない。
陸が鼻で笑った。
「強豪なんて興味ねぇし。やりたいようにやれるチームで、好きに暴れたいだけだわ」
陽翔も静かにうなずく。
「俺も、あんまり推薦とかもらえなかったし……またみんなでやれたらいいなって」
優斗が口を開いた。
「お前らとなら、どこでもやれるよ」
俺は、1枚のプリントを取り出した。
「ここ、どう?」
《県立東雲高校バスケ部 部員不足のため新入生募集中》
「部員5人しかいないらしい。……俺たちで、最初から作れるぞ」
陸がニヤッと笑った。
「最高じゃん、それ」
「やるなら本気でやろうぜ」
⸻
こうして、俺たちは東雲高校で再び集まることを決めた。
弱小校、部員は俺たち5人だけ。
スタートラインは最低。でも――
このメンバーなら、きっと何かを起こせる。
俺たちの、新しい物語が始まる
■ 遥
•ポジション:PG(司令塔)
•身長:165cm
•特徴:視野が広くパスが上手い。小柄で強豪校に弾かれたが、冷静でリーダー気質。
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■ 海斗
•ポジション:SG
•身長:175cm
•特徴:3P特化型。パス・守備は苦手だが、勝負強い性格でムードメーカー。
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■ 陸
•ポジション:SF
•身長:178cm(調整可)
•特徴:ドリブル巧者で1on1に強い。自己中で協調性に欠けるが、爆発力あり。
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■ 優斗
•ポジション:PF
•身長:180cm
•特徴:攻守バランス型。派手さはないが、堅実でチームを支える縁の下の力持ち。
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■ 陽翔
•ポジション:C
•身長:183cm
•特徴:フックが得意。体は細く当たりに弱いが、ポストスキルとセンスは高い