表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

犯人は『あなた』だ

作者: 0331

処女作ゆえにつたない文章ですが楽しんで読んでいただければ幸いです

犯人は、『あなた』だ。


急に犯人呼ばわりされて不快に思ったかもしれない。

ただ、この物語はそう宣言することから、始まるのだ。

この言葉は、ただの“仕掛け”ではなく――事実そのものである。

だからこの言葉を絶対に忘れるな。



物語の幕が上がったのは、灰色の朝だった。

東京郊外、曇天の下、人気のない公園の中央。

春の桜が散ったばかりの遊歩道、その真ん中に男の死体が転がっていた。


仰向けに倒れた男の顔は、血の気を失い、奇妙な安堵の表情を浮かべていた。


通行人が叫び声をあげた。

その声が、午前6時12分、すべてのはじまりを告げる鐘となった。


被害者の名は、三木俊介。

ライター。35歳。

週刊誌にノンフィクションを寄稿し続けた、飾り気のない書き手だった。

彼が最後に担当していたのは、“物語”をテーマにした連載企画だった。


警察が到着する頃には、周囲は野次馬で囲まれ、現場の静寂はもう戻ってこなかった。

だが、私――古賀啓司がその死体を見た瞬間、胸の奥に冷たい疑念が生まれた。


「これは、ただの殺人じゃない」


なぜなら、彼の右手には、一冊の本が握られていたからだ。

それはどんなノンフィクションよりも異様な存在感を放っていた。


表紙には、こう書かれていた。


『犯人は、あなたです。』


私は探偵である。しかし、探偵とは名ばかりの町の便利屋としてその日暮らしをしている。

なぜそのような私がこのような身に余る殺人事件を調べているのかというと三木の妹が私に「兄が何かに怯えていた」と相談してきたのだ。


「死の直前まで、兄は何度も『これは書いてはいけないかった』と口にしていたんです。」


妹の証言は曖昧だった。だが、それが一探偵である私の好奇心を刺激した。


彼の事件について調べるため私は、事件当日の彼の行動を洗い出した。

目撃証言によれば、三木は午後6時過ぎ、新宿の喫茶店にいたという。何かPCを用いて作業をしていたがひどく緊張した様子で、しきりに周囲を気にしていたという。

これだけの情報では不十分であると考えた私は彼の自宅に行くことを決意した。

この時の私はなにか不可抗力のようなものに逆らえなかったのだと思う。


彼の自宅は殺人事件後だというのに警察も捜査が終わったのかやけにすんなりとはいることができた。

彼は両親亡き後実家で一人暮らしをしていたらしく、一人で住むにはあまりにも広かった。

私は三木の書斎を訪ねた。そこには事件当日彼が使っていたであろうPCが存在した。

いや、この言葉は不適切であろう。


そこには彼のPCのみが存在していた。


普通に考えるのであらば証拠品としてほかの物品は警察が回収したと考えられるだろう。だが、彼が事件当日に使っていたPCを回収しないなどそのようなばかげた話が存在するのだろうか。

あまりにも不可解だとは思ってはいたが、探偵としての好奇心につられ彼のPCを調べた。

そこで私は気になる一つのフォルダを見つけた。暗号化されていたが、名前が残っていた。


「Chapter_13」


これはおそらく彼が連載していた記事であろう。

しかし妙だった。三木が執筆していた連載は、すでに第12回で完結したとされていた。13回など、存在しないはずだ。


あるいは、連載の「続き」ではなく、「真実」だったのかもしれない。


私は、その『真実』にまるで引き寄せられるかのように彼の記事を読んだ。すると、目を引くが一節があった。


『物語は読者自身の解釈という名の思い込みによって”結末”が決まる。』


……ああ、なるほど。彼は気づいていたのだ。

読者が、文章を「読み」、それによって影響を受け、この物語(世界)を自分の世界に落とし込もうとしていることに。


つまり三木は“読者”に殺された。

いや、正確に言うならここまでの文章を読み、自分が犯人だと思い込んでいた”読者”によってだ


冒頭の一文を信じ込み、物語の結末を信じ込んでしまった者。


そう、犯人は”あなた”だ。

いまこの文章を読んでいるあなたこそが――三木俊介を殺した張本人なのだ。


この事件は、最初の一文を読むことで成立する殺人だ。

読んだ瞬間、あなたはすでに“加害者”になっている。


だが、ここで一つ問おう。


「この物語に続きが必要か否か」


さあ、あなたはどうおもう?

自分は読者でありまだ続きを欲するか。

もう結末は定まったと思い、今すぐサイトを閉じて、現実に戻るか。


選択は、あなたに委ねられている。









































































































































あなたは今もこの物語を読んでいる。

それはつまり、この物語がまだ終わっていないということだ。


私は探偵として多くの事件を解いてきた。

だが、今回の事件は違った。

証拠は物理的なものだけではなかった。

容疑者は肉体を持たず、動機はページの間に滲み、犯行現場はスクリーンの中にあった。


この物語が読まれることで、初めて事件は成立する。

あなたがこの文章に“感情”を注いだ瞬間、殺人は完了する。


つまり、あなたの指がこのページに触れたその時、あなたはトリガーを引いたのだ。


もう一度、私の自己紹介をしよう。私は探偵だ。

だが、これから私は探偵ではない。

私は今から、証人となる。


この文章そのものが証拠だ。

あなたがそれを読み、心を動かしたことが、犯行の一部だ。

だから、あなたが逃げても無駄だ。

この文章は、あなたの記憶に、心に、罪として残る。


……いや、まだいい。

この物語はもう少しだけ続く。


だが、こうしている間にも、あなたはこの文章に巻き込まれていく。

あなたの心が動けば動くほど、証拠が濃くなる。

この文章はただのテキストではない。

あなたの犯行の記録だ。


だから、もう一度、問う。


この物語の結末は、あなた自身が選ばなければならない。


さあ最後の選択の時だ


私はここまで、あらゆる伏線を拾ってきた。

冒頭の一文。

隠されたChapter_13の存在。

あなたが、この物語を結末を望もうとした意志。


そしていま、私はここにいる。


私は物語を読む者としてここに現れた。

だが今は、物語の“外”に立つ者として、あなたを告発する。




もし認めるのであらば、この結末は物語の犯人であると、自ら明かす。

その瞬間、あなたは”読者”ではなく、“登場人物”へと変わる。


もし否認するのであらば、あなたはただの読者だと信じ、ページを閉じることだ。

だがそのとき、あなたは物語の中で“逃亡中の犯人”として記録され続ける。

この物語を読む誰かが、次にあなたを見つけるまで。


もし黙るのであらば、それは選択を放棄することだ。

その場合、物語は永遠に終わらない。あなたの中で、ページが閉じられずに開いたままこの物語は生き続ける。


あなたに選ばせよう。


いや、違う。

この物語は、最初からあなたに“選ばせるために”書かれていた。


すべてはこの瞬間のために。


さあ――


あなたは、どの物語を選ぶ?


(……選択を示すものは、どこにもない。

 だが、あなたの心がすでに選んでいることを、私は知っている)


それが、”あなた”の役割だから。


《完》

ここまで読んでいただき幸いです。少々思想が強かったかもしれませんが面白いと思っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ