回想 熊の過去〈後編〉
階段を上がると、吐瀉物が目に入ったが見なかった事にする。
アランの名誉のためにも。
扉を開けて、手早く見張りの死体を引き入れ扉を閉じる。
地下に戻り、適当に死体に傷を付けてからお互いの腹に剣を差し込む…これで大丈夫だろう。
「僕たち冒険者だよね?…なんだか犯罪者見たい」
アランがボソリと呟く。
「言わんとする事は分かるが…コイツらを放ってはおけないしな…」
「そうだね…ごめん」
まだ12才だもんな…無理もない。
「いいさ、それよりも……これからどうするか…」
この少女を安全な所まで連れて行かなければいけないのだが…オーシアの騎士に任す事は出来ない。
ただ潜入して証拠を集めるだけの簡単な仕事だった筈だったんだが…さてどうしたものかねぇ。
「アルヴィンが運んでる間に考えたんだけど、僕が騎士の気を引くから、アルヴィンはその子を連れて裏から逃げてよ!」
そう言ってアランはマントを脱いで少女に着せて、フードを深く被らせる。
「これで僕と見間違えるはずだよ!夜が開ける前に港から船に潜り込んでオーシアを出てしまおう!」
「アランはどうする?」
「錯乱したフリをして表から逃げ出して暫く身を隠すよ、大丈夫!北の方にトトラ村があるはずだしあそこなら辺境だから騎士も来ないよ!」
アランは頭が良いから上手くやってくれるだろう…良い相棒を持ったもんだ。
「よし、分かった!アラン…これを持って行け」
俺はポケットから1つの指輪を取り出すとアランに渡す。
「これは…?」
「友情の証さ、魔力を篭めると少しの間だけ姿が隠せる…逃げるなら必要だろ?」
本当はこの子に使わせたいんだが…今の状態では自分で魔力を籠めれそうに無いからな。
そう言って笑うとアランも笑う。
「ありがとう!…でもこんなのも持ってるなんて…アルヴィンって本当に冒険者?暗殺ギルドの間違いじゃない?」
「違うわい!…俺はアメリアに行く、あこまで行けば追われることは無いだろうしな」
「そうだね、セントラル大陸なら大丈夫だと思う」
俺は少女を背負うと、アランに別れを告げた。
「じゃあ俺は裏から出る、アランまた会おう!」
「うん!また会おうね!」
俺は屋敷を出ると廃都市の裏手にある茂みに隠れた。
それを確認したアランが、魔石の着いた球を空に投げた。
緊急用の信号弾だ。
それはパンッと空で弾けると赤い光を見せた。
暫くすると辺りから騎士団がゾロゾロと集まってくる。
「うわぁぁぁぁ!!ひ、人が…し、死んで…うげぇぇぇ」
アラン迫真の悲鳴と嘔吐する声を聞いた騎士団がアランに駆け寄るのを見て俺は廃都市を出た。
俺は尊厳を守ったはずだ…。
それからは、オーシア王国を南から西にぐるりと回り込み、何とか夜明け前にはベーネチアにたどり着いた。
町の入り口に近寄ると見張りの騎士と目が合う。
「アルヴィンか、早い戻りだな…アランは、どうかしたのか?」
俺がアランを背負ってると思った騎士が尋ねてくる。
「仕事で行った先がスプラッタハウスでな…それで参っちまってて…さっさと休ませたいから通ってもいいか?」
「そいつは気の毒だったな…早く休ませてあげると良い」
俺にしがみつこうともせず、ダランと垂れてる腕を見て騎士は気の毒そうに顔を顰めて町に入れてくれる。
「ありがとう、あんたも見張りご苦労さん!」
「おう!」
こうして町に入った俺は、そのまま港に行ってアメリア行きの船に飛び乗った。
アメリアに到着すると、王都の人達の助けもあり、そこで冒険者をしつつ少女と過ごす日々を過ごした。
心身消失だった少女も1年が過ぎると少しずつ話せるようになり、徐々に回復していった。
名前はカンナと言って、オーシアとの戦争の時に故郷を無くし奴隷商に捕まったらしい。
彼女もまた、戦争の被害者だったのだ。
俺は元気になっていく彼女に惹かれ、彼女もまた助け出してからも献身的に付き添った甲斐がありもう1年が過ぎた頃には、俺達の間に子供が出来た。
産まれた子は女の子だったので俺は、メアリーと名付けて3人で平和に過ごしていった。
それから8年の時が流れ、メアリーも大分大きくなったある日、俺はギルドの依頼でアメリア近隣にある森に行くことになったのだ。
どうやら最近、森の魔物が凶暴化してきていて、いつの間にかランクAの冒険者となった俺に依頼が周って来たのだ。




