熊の傷
〈sideアルヴィン〉
アメリア周辺の草原で仕留めた獲物に腰かけながら俺は、1枚の写真を眺めている。
そこには、此方を向きながら微笑む赤茶色の髪に、青い瞳をした狼人族の女性と、女性に良く似た少女が笑ってる姿が写っていた。
「…俺は、何をやってるんだろうな…」
メアリー…カミナ…俺はどうしたらいい?
「…なんて顔してるんですかい…」
そう声が聞こえたので、写真から目線を上げるとジローがこちらに歩いていた。
「ジローか、ちょっとな…」
少し離れた所には少年も居た、見ない顔だ、新米の付き添いだろう。
「それを見てるってこたぁ…お嬢ちゃん絡みかねぇ…重ねて見えるんでしょう?」
写真に気付いたジローは、居た堪れない顔になってタバコを取り出すと火を付ける。
鋭い奴め…
ジローは、煙を吐き出して王都の方を見つめる。
「ふぅー……別に悪いとは思いませんがねぇ…旦那がお嬢ちゃんと会ってからは、楽しそうにやってて安心したんすよ?昔の旦那は、居た堪れ無さすぎて見てられなかったってもんよ…」
どうやら話すまで、逃してくれ無さそうだな…。
「チッ…その通りだよ…日に日に成長する嬢ちゃんを観ているとな、それが成長したメアリーの姿によ…見える時があるんだ…」
俺はそう言ってジローに、力無く笑う。
「旦那は、お嬢ちゃんをメアリーとして扱いたいんです?」
「違う!!」
堪らず立ち上がって叫んだ。
「でしょう?見ていて分かりますよ、旦那はお嬢ちゃんをお嬢ちゃんとして、ただ娘みたいに大切に接してあげてる、それだけですよ…」
「だが俺は!…俺は…メアリーも…カミナも…救えなかった!!そんな俺に…資格が…」
震える両手を見つめると、今でも2人の血で染まってる様に見える。
「誰が決めるんですかい?その資格は?…いいですかい旦那?…あの時とは違うんです、お嬢ちゃんも親を亡くしてるんです…お嬢ちゃんも旦那も…表には出さないですけど…お互いに傷ついた心を癒すのの何が駄目なんです?」
ジローが涙ながらにそう訴えてくる、俺の目にも涙が流れる。
「……許してくれるだろうか」
そんな言葉がポツリと漏れる。
「俺はぁ辛そうに生きる旦那より、楽しく笑ってる旦那が良いっすけどねぇ…それは2人も同じだと思いますよ?」
ジローの言葉が胸に沁みる。
本当にコイツには叶わない。
「ジロー…すまないな、そして…ありがとう」
「よして下さいよ旦那…俺だって、あの時の事は…悔やんでも悔やみきれないんすから…!」
「ジローお前は悪く無い…全ては俺が…俺の不始末が招いた事だ…」
あの悲劇が始まったのは、俺がカミナと出会った時から始まって居たのだ…。
あの時にもっと気を付けていたら…あんな悲劇は起こらなかった。
俺はあの時の事を思い出す。




