回想 熊
「騒がせちまって悪かったな」
そう言って熊みたいな大男が周りに居る人に謝る。
「良いっすよ旦那、ただ死ぬかと思っただけですわ」
隅っこで見てたおじさんがそう答える。
全くだ、じゃんけんを技に使う少年が居る世界の方が似合いそうな気がする…声だけで人殺したしね…うん。
熊さんと目が合うと、熊さんはしゃがんで私に向き合うともう一度謝ってきた。
「嬢ちゃんも怖い思いをさせてごめんな?」
私が受けた被害は、熊さん渾身の咆哮なだけだけど…助けてくれたのでそれは言わないでおく。
「大丈夫です、助けてくれてありがとう!熊さん」
「くま…さん?」
やばい!散々内心で熊さんって言ってたからついポロッと出てしまった…。
あわわわわ…と熊さんを見ると熊さんは…。
「ぶぅわぁぁぁっはっはっあぁぁ!そうだなぁ!大きいもんなぁ!可愛らしいあだ名をありがとうよ!嬢ちゃん」
とまた盛大に笑うと私にお礼を言う。
「えーっと……どういたしまし…て?」
よく分からないけど、お礼を言われたので首をコテンと傾げながらそう答える。
そんなやり取りをしていると、ギルドの入り口付近でそろりそろりと逃げだそうとしてる連中がいた。
「そこのチンピラも持ってかんかい!!」
と片手でハゲピラを引き抜いて、逃げようとしていた連中に投げつける熊さん…つよい。
ハゲピラを投げつけられた連中は、ハゲピラごと外へ飛んで行った。
比喩とかでなく物理的に飛んで、行った……ボウリングのストライクをした時のピンみたいに。
「ふぅ……そういや、あんたら見ない顔だな…新入か?」
一通り場が治ったのを確認して熊さんが私達に話しかけてきた。
「あ、あぁ…さっきこの都市に来たばっかりでな、冒険者登録と人探しの情報を求めて来たんだ」
ルー兄が面くらいながらも答える。
「人探しか…よし!その依頼俺が受けるとしよう、まずは冒険者登録を済ますといい!俺は上の部屋で待ってるからよ!」
そう言って、のっしのっしと歩き始める熊さん。
「依頼って…報酬も何も決めてなかったんだが…」
ルー兄が頭をかきながらそう呟くと、熊さんが振り返る。
「なぁに、来て早々嫌な目にあわせちまった詫びだ…報酬はいらねぇよ」
そう告げて熊さんは、上に上がって行った。
「なんだ、このギルドにも芯の通った奴がいるじゃねぇか…」
ルー兄がそう言ってフッと笑う。
「とりあえず、登録しましょっか?」
やっと話したリア姉は、もういつものリア姉に戻っていた。
それから受付を済ませて、記入事項を書いた書類を提出して、ギルドプレートの発行を待ってる時に、先程の隅で見ていた中年のおじさんが話しかけてくる。
「お嬢ちゃん達大変だったなぁ、でも運が良い!旦那が面倒を見てくれるなら、もうあの連中も手出しして来ないさ」
「熊さん強かった!あれはやばい!!」
「ガハハハ!そうだろう!それにしても熊さん…ダハハ!お嬢ちゃんもスゲーよ!これは大物になるぜ!」
私の熊さん呼びがツボに入ったのかおじさんはゲラゲラ笑ってる。
周りの人達も笑ってるみたい。
「それで?さっきの連中は何なんだ?見るからにガラが悪かったが…」
「アイツらはストラーダファミリーって言うパーティを組んでる連中さ…あんま良い噂は聞かないね」
笑転げてたおじさんが真面目な顔に戻るとルー兄にそう話す。
「でしょうね、入って来た時から人の胸をジロジロと見てきて、更には私の可愛い妹にも絡んできて…思い出したらまたムカついてきたわ…」
あぁ…またリア姉がピリピリし始める。
「どうどう…リア姉落ち着いて」
私はピリついてるリア姉を宥める。
そんな様子を見ていたおじさんは楽しそうに話す。
「来たばかりの新米なのに、明らかにヤバい奴相手に物応じせず立ち向かうとは…お嬢ちゃん達の活躍、期待してるぜ!」
「目立つつもりは無かったんだけどな」
「ま、旦那みたいな良い奴も居る、ストラーダファミリーにはあまり関わらない方がいいさ…それを伝えたくて来たんだ、じゃあな!」
おじさんは、言いたい事は伝えたという顔をして私達の前から離れる。
「あんたも良い奴だよ、俺はルークだ、あんたは?」
ルー兄がそう言うとおじさんは背を向けたまま顔だけチラリとこちらに向けて答える。
「そいつはありがとよ、俺はジローだ」
それだけ伝えるとおじさんは、冒険者達の中に消えていった。




