覚醒
私は手紙を読み終えると、その場にぺたんと力なく座り込む。
私の手からハラリと落ちた手紙をルークが拾いあげる。
書いてある内容に目を通したルークは、リアラに手紙を渡してアランの遺体に話しかける。
「…安心してくれ、あんたの想いは…確かに受け取ったからな」
そう言って船の方へ向かうルークと入れ替わるように、リアラが私の肩を抱く。
「良いお師匠様でしたね…」
「…うん」
せめて安らかに眠れるようにと、私とリアラはアランの遺体を横に寝かせて手を組ませた。
祈りを捧げていると、ルークが戻って来て黙祷を捧げてから私達に話しかける。
「行こう…アメリアに」
「えぇ…!」
「…うん!」
こうして私達は船に乗りこむと、アメリアを目指して海に出たのだった。
イースタル大陸からセントラル大陸に向かうには、まずイースタル大陸から内海を出て外海に出なくては行けない。
ここから真っ直ぐ西に進み、ベーネチア経由で外海に出るのが手っ取り早いが、あちらはルークの指名手配の事もあり、北側経由のラキア樹海を抜けて外海へ向かう事にした。
ラキア樹海、そこはトトラ村から海を跨いで北部に存在する樹海だ。
獰猛な魔物が多く生息していて、この水路を通ろうとする船はそう居ない。
なぜなら…。
ドンと船に衝撃が走ると、水面から何かが船に飛び乗ってくる。
魚に手と足が生えたような見た目に銛を構えたモンスターが3匹居た。
そう、サハギンである。
サハギンはこうして水中に身を潜めて、獲物が頭上を通ると浮上して襲うのだ。
「ちっ…サハギンか!リアラ船の操縦を頼む!」
ルークが操舵場を飛び越えて甲板に着地する。
私も刀の柄に手を乗せて甲板に飛び込む。
「えぇ〜?!私、船なんて操縦した事無いよ〜?」
リアラがわたわたと舵を握る。
「とりあえず岸にぶつからなければそれでいい!」
ルークが剣を抜きながら叫ぶ。
「くるよ…!」
サハギン達が銛を携えてこちらに来るのが見えたので、私はルークに伝える。
「来やがったな!2匹は俺が相手するから、シオンは1匹を惹きつけてくれ」
「あい!」
そう指示を出しながらルークは、サハギン達に突っ込んで行く。
上手い事2匹を惹きつけたようだ。
残りの1匹が私目掛けて銛を振って来る。
私はすぐさま黒い鞘から刀を抜き、銛を受け流す。
予測していたのだろうサハギンが、振り抜いた勢いのまま回転して尾びれで私を跳ね飛ばす。
「うぐっ……!」
2回程バウンドして、船のマストに叩き付けられた私は、背中からの痛みに顔を顰める。
「シオン!、癒しの力よ!ヒーリング!!」
リアラがすぐさま回復魔法を使ってくれた、痛みが引いていく。
サハギンすら満足に倒せないのか…こんなんじゃ私は…。
ルークもまだサハギンと戦ってる、何とか時間を稼がないと…。
私を飛ばしたサハギンの追撃が来る。
私はギリギリの所でそれを転がって避ける。
再びヒレで叩きつけてくるが、刀で何とか防ぐ。
サハギンは、私が体制を整えるのを防ぐためか、銛とヒレによる蓮撃を繰り返してくる。
何とか防いでいるけど、鋭い鱗が肩や太腿に当たり、傷口が増えていく。
「くっ…こんな所で躓いていられないのに…」
防ぎながら隙を伺っていた時だ、痛みのせいか力が緩み、サハギンの攻撃を防ぎきれず私は、刀を弾かれて落としてしまう。
「しまった…!!」
慌てて白い鞘から刀を抜こうとするも、そんな隙をサハギンが見逃す筈もなく、鋭いヒレが私の身体を切り裂いた。
赤い鮮血が舞う。
「シオン!!くそったれぇ!」
「船の上じゃなきゃ…魔法で吹き飛ばせるのに…私は、妹1人守れないの…?」
私は弱い…何も出来ずに終わるのかな…
悔しい…守られてばっかりで情け無い。
強くなるって決めたに…!
『大丈夫』
そんな声が聞こえた気がした。
私の身体が光り輝くとサハギンを吹き飛ばす。
辺りを見ると、ルークとリアラも光っているみたいだ。
「なんだ…?力が漲って来る!」
「私も…魔力が溢れてくる!」
ルークの動きが変わる、さっきまでとは比べようも無い速さでサハギンを切り付けた。
途端に仲間を切り付けられた2匹のサハギンは、危険を悟ったのか海に飛び込む。
「逃がさない…!ライトニングストリーム!」
上空から凄まじい轟音と共に一筋の光が水路に落ちる。
バリバリと音を立てて紫色の稲妻が広がる。
稲妻が過ぎ去った後、水面には先程のサハギンだけでは無く、隠れていたサハギンも合わせて10匹以上もの魔物達がプカプカと浮かび上がっていた。
「やったね…ルー兄…リア姉も凄いや…」
そう呟いて私は、その場に倒れた。
私の両肩には、2つの刻印が浮かんでいた。
右肩にはルークの右手の甲と同じ、五芒星とその中心部に太陽の印が。
左肩にはリアラの左手の甲と同じ、五芒星とその中心部に月の印が。
「「シオン!!」」
2人がこちらに駆け寄ってくるの眺めながら私は、気を失った。




