女神は聖女のような
まずい…やらかした。
俺は下腹部の不信感と罪悪感に押し潰されそうになり、せっかく泣き止んだのにまた泣きそうになっていた。
『うーん…この子言葉が分からないのかな?ごめんね!大丈夫だからね!ええっと…そうだっ!私はアリシア!ア・リ・シ・ア!』
お姉さんは、俺がまた目に涙を溜めてるのに気付くと慌てたように話しかけてくれた。
今度は、自分を指差しながらゆっくりと言葉を話してくる。
「あ…あいしあ?」
体が幼児のせいか慣れてないせいなのか上手く話せない…あとこの世界の言葉の発音もなかなかしにくい。
アリシア…これがお姉さんの名前なんだろうか?
俺が何とか真似して声を出すとお姉さんはパッと笑顔になり何度も頷いてくれた。
『そう‼︎アリシア‼︎君の名前はな・あ・に?』
今度は俺の方を指差して話してくる?
俺の名前だよなぁ…前世では橘 祐樹だったけど、この世界でもそのまま使って良いものだろうか…?
そもそも、この世界の俺は何なんだ?こんな魔獣がいる森の中に1人ポツンと居るのもおかしい…
普通転生ならば親から生まれて、赤ちゃんから始まるはずだ。
転移ならば前世の見た目か少なくとも性別は同じだと思う。
迂闊に名乗ってしまって後から親と会い名前が違うと不味い事になるか…?
俺がすぐに返事をせずに、眉を八の字にして悩んでいるとお姉さんも俺の頭を優しく撫でながら悩んでるみたいだった。
『むむむぅ…もしかしてこの子、名前が分からない?記憶喪失…というよりかは…どうみたって奴隷よね…』
少しの間お姉さんは、悩みながらも俺を見つめていたら何かに気付いたみたいだ。
『こんな布切れ同然の服1枚だけなんて可哀想に…ってあらら!よしよし…怖かったもんね!まずは体をキレイキレイしましょ?』
そう…俺の下腹部からの水溜りに気が付いたのだ。
おもらしがバレたのだ…終わった…色々と人として大事な何かが。
「うっ…ぐずっ…ふぇぇぇぇぇ!!」
俺は恥ずかしさやら情け無いやらで、今度こそ泣いた。
この体になってから精神が体に引っ張られるのか緩い……いや…32歳男児だったとしても泣くし垂れるか。
ほんと喜々として異世界を楽しめるなんて、あんなの2次元だけだわ…実際に目の当たりにして分かったよ。
それから俺は、お姉さんに手を引かれて近くにある川辺に移動して身体を洗った。
俺が洗ってる間にお姉さんは、俺が身に纏っていた布キレを綺麗に洗ってくれていた…。
そうして俺が濡れ鼠もとい濡れ狐となり川から上がると、お姉さんは杖で何か魔法を唱えるみたいだ。
『よし!パパッと乾かしちゃうね!ヒートストーム!』
杖が僅かに赤と緑に光ると、そこから暖かい風が流れてきた。
現世で例えるとドライヤーか!便利な魔法…。
こうして俺はお姉さん…もといアリシアさんの魔法で綺麗さっぱり元通りになりましたとさ。




