旅立ち
こうして目紛しい1日を終えて1夜を明かした朝、目が覚める。
起きあがろうとするが、何かに阻まれて身体が動かせない。
クルリと横を向くと、リアラが私を抱きしめて心地良さそうに眠っている。
うん、解ってた。
私は体温が高いからか、昔からよくこうして誰かに抱えられて朝を迎える事が多い。
アリシアだったりミラだったりと…そして皆んなこんな感じの幸せそうな顔をして眠るのだ。
「ふにゃぁ……シオン…お姉ちゃんに任せなさい…くぅー…」
むにゃむにゃと寝言を漏らしながら眠るリアラが、私の頭を胸に埋める。
「もがっ!?」
息ができない、慌ててリアラの背中をペシペシ叩いて起こそうとするが起きてくれない。
何が任せなさいだ!このままだと死ぬぞ?私がな!
何とか胸を押し返してみる、柔らかい…って違う違う…悲しきかな、この非力な腕じゃ抜け出すのは無理そうだった。
せっかく朝を迎えたと言うのに、また眠りそうだ…永遠に。
あぁ…村の皆んなが見える…こんなに早く来るつもりは無かったはずなんだけどなぁ…?
そんな時だった。
「おーい、いつまで寝てるんだ?…入るぞ?」
ガチャリと扉が開き、ルークが入ってくる。
「シオン?!…おいリア起きろ!シオンを殺す気か!」
意識が飛びかけてピクピクしてる私に気がついたルークが、リアラから引き剥がしてくれた。
「ぷはぁ!……し、死ぬかと思った…ルー兄、ありがと…」
失いかけた酸素を肺に入れながらルークに感謝する。
「朝っぱらから何やってんだよ…全く…」
流石は元騎士団…掴んで離さないのは敵だけにして下さい…。
「シオン、本当にごめんね!」
そう言って両手を合わせたまま頭を下げるリアラ。
私はひしっとルークの後ろに隠れつつ謝るリアラを見ている。
「まぁ…なんだ、悪気は無いんだ…許してやってくれシオン、リアも気を付けろよ?」
そう言って後ろで、毛を逆立てて警戒している私にルークはポンポンと頭を優しく叩く。
「もうしないよー!だから嫌わないでぇ…」
しゅんと落ち込むリアラを見て私は、ふぅとため息をついてリアラの前に行く。
反省してるみたいだし許してあげよう。
「私が不意にそっちを向いてしまったせいもあるから…もういいです、私もごめんなさい」
ペコリと頭を下げる私に、リアラは抱きついてくる。
「シオンは悪く無いのに〜!ありがとうシオン〜!」
「よし、落ち着いた所で、そろそろ飯にしよーぜ?先に行ってるから、着替えてから来いよ」
ルークがそう言って、部屋から出ていく。
私は、衣装棚の扉を開けると、その中にある1つのローブを手に取り、騎士団の服に着替えようとしているリアラに手渡す。
「リア姉…これ使って?」
「シオン…流石にそれは…」
私が渡したのは、かつてアリシアが着ていたローブだった。
「リア姉に着てほしい…術式が施してあるから騎士団の服より丈夫だと思うから」
もしもあの時、アリシアが礼拝用の服じゃなくこのローブを着ていたら…ついそんな事を思ってしまう。
「…良いの?」
私は頷く、もう失いたく無いから。
きっとアリシアも許してくれると思うから。
「…ありがとう、大事に使わせてもらうね」
私の頭を撫でてローブを受け取ると、リアラは着替え出した。
私も着替えよう。
再び衣装棚に向かった私は、奥の方に閉まってあった服を取り出す。
それは、大和の服を意識した作りの和と洋が合わさった可愛らしい服だった。
肩を露出した前併せの白いノースリーブ調のトップスに、腕から先までの振袖と膝上丈の袴風の赤いスカートと、黒い布に黄色の帯。
太腿からつま先までは白いニーソックスと、黒金の脛当てを白い布と赤い紐で整えた靴。
私が妖狐族であると知ったアリシアが、いつか大和に行く時にと作ってくれた服、もちろん術式が施してある。
目立たないように行くなら違う服の方がいいだろうけど、私はこの服にした。
どの道、この耳と尻尾は隠せないし、少ないが各地に散った大和出身の妖狐族だって居るはずだ。
それに今は毛先の色も変わったから、早々にバレはしないだろう。
着替えを済ましてリアラの方を見ると、かつて初めてあった日にアリシアが来ていた、白いローブにケープとフード、差し色に青い装飾の入った服を着たリアラが居た。
「シオンも準備できた?…あら、その服…」
「大和を意識した服…いつか大和に行く時にってアリシアさんが作ってくれた服…」
やっぱり駄目だったかな?そう思い耳と尻尾をたらんと垂らしながらリアラを見上げると。
「あっ、ううん!凄く可愛くて似合ってるなって思って!……でもそっか、そんな想いが篭った服なら絶対着てかないとだね!」
そう言って少し切なげに笑ってくれた…ありがとう。
「よしっ!それじゃあ行こっか?みんなの所へ」
「…うん!」
私はリアラと手を繋いで、家を出る。
アリシアとシェリーの服を纏った2人。
「…行ってきます」
一度振り返り、かつて長らく過ごした家に別れを告げた時だった。
『行ってらっしゃい、シオン、幸せにね』
そんな声が聞こえたような気がしたのだった。




