名前
それから私達は、アリシアの葬儀を済ませた、いつの間にか日も落ちていた。
月明かりが照らす中、私はアリシアが眠る墓の前に置いてある、生前彼女が愛用していた杖を見ていた。
周りを見ると、木で組まれた簡素な十字架の前で泣いてる子供も居る。
ジーク達や騎士団は黙祷を捧げていた。
そっと私は、右手の親指を噛み切ると、血で十字架にイザナミの印を描く。
「クオン…それは?」
私の様子に気が付いたリラが尋ねてくる。
「イザナミの印…シェリーとアリシアさんの…絆の証みたいなものです」
ポツリと呟く私をリラはそっと包み込む。
「クオンにとってもお母さんでしょ…そんな悲しい事言わないの」
『その子はクオンじゃない!』
あの時のアリシアの言葉を思い返す。
そう、アリシアにとっての娘はシェリーだけだ。
シェリーの中で見ていた私は違う、私が母と呼んではいけない。
「あはは…違いますよ…私はシェリーの中で見ていただけに過ぎません、それに違うと言われちゃいましたから…」
そう言って困ったように笑う私を見たリラの抱きしめる力が強くなる。
「じゃあ私がクオンのお姉ちゃんになる…!今日からクオンは私の妹…いいわね?」
「随分と楽しそうな事話してるじゃねーか、俺も混ぜろよ?」
会話を聞いたジークも此方にやってきた。
あぁ…暖かいなぁ…2人の優しさが心に染みる。
「あんたまで入るとややこしくなるじゃん!何で弟まで増えるのよ!!」
「俺が弟かよ⁉︎」
また私を挟んで騒ぎ始める2人に私は、嬉しいような困ったような表情ではにかむ。
「私が一番末っ子なのは変わらないんですよね?」
「「当たり前だ!」でしょ!」
わぁ息ぴったり……えへへ…どうやらこれからの旅は楽しくなりそうだ。
それから私達は、今後の事とリラ達について話し合ったりした。
リラとジークは、元々は帝国で産まれた孤児だったらしい。
帝国貴族の権力をものに言わせた態度で平民を侮蔑する環境で育ってきた2人だったが、ある時リラが貴族の目に止まって、権利の力で妾にされそうになった所をジークが助け出して、そのままオーシアに逃げたし、そこで騎士団に拾われたと言う。
なんともまぁ…2人もかなり苦労してきたんだと思う。
そしてリラもジークも同じ20歳で、帝国を出たのが5年前だと言う事も教えてくれた。
15歳の子を妾にするって…この世界では16歳で結婚するのは割と普通な事らしい、因みに12歳は犯罪らしい、しても政略的な婚約までで手を出したら普通に貴族でも捕まるとの事、なぜか12歳の部分を細かく説明された…はて?。
次の目的地に関しては、このイースタル大陸を離れて西にあるセントラル大陸に渡り、そこあるアメリア王国を目指す事になった。
それにあたり、私の存在をなるべく帝国に見つからない様にするために名前を変える事にしたんだけど…。
「んー……ジークはルークで良いとして、私は何がいいかなぁ?」
「俺の意見は無しかよ!…でもま!ガラッと変わるよか呼びやすいしいいか、んじゃあ俺は、今からルークだ!」
とまぁ…こんな感じでジークは指名手配で、私は帝国に狙われるから変えるんだけど、そしたらリラも「私も豚貴族に名前知られてるし変えようかな!仲間外れは嫌!」とのこで、みんなして名前を考えているのだ。
「えっと、じゃあ…リアラはどうですか?」
おずおずと私が言うとリラが反応する。
「リアラ…うん!良いかも!クオンありがとうー!さっすが私の妹ね!良いネーミングセンスしてるわ!」
そう言って笑顔になり、嬉しかったのだろう私に抱きついて来る。
喜んでもらえたなら良かった良かった。
「クオンの名前、私考えてみたんだけど、シオンはどう?シェリーとクオンを合わせてシオン…どうかな?」
リアラは少し恥ずかしそうに私にそう言ってくる。
シェリーとクオンでシオンか……うん、これ以上ない名前だ!。
「ありがとう!リア姉、私は今からシオン!」
理由まで考えてくれたリアラに嬉しくなって、笑顔で見上げる。
「んじゃ、後は家名か…そっちはどうするかねぇ…」
「そうねぇ…」
「う〜ん…」
3人して腕を組み考える。
「では、アルカンジュと言うのはどうですか?古代聖星語で大天使を冠する言葉です」
そう言って1人の騎士が話しかけてくる。
「また大層な名前を持ってくるな…ルーク・アルカンジュか…悪くないな」
「リアラ・アルカンジュ…ちょっと恥ずかしい気もするけど、私も気に入ったかも!」
「2人共お似合いです!それにシオン・アルカンジュ!僕はあの時、天使を見たんですよ!だからこの名前しか無いと思いまして!!」
そう言って騎士が私を見つめてくる。ちょっと怖い。
「よしよし、お前の気持ちは充分伝わったから、あっちで話そうな」
ルークは騎士を連れて離れていく、名前をくれてありがとう…名前も知らない騎士さん。
遠ざかるルーク達に手を振っておこう。フリフリ。
こうして私達は、新しい名前を手に入れたのだった。




