始動
真っ白な空間に妖狐族の少女が膝を抱えて蹲っている。
そこへ黒い靄が何処となく現れ、人型に形を変えて少女の前に降り立つ。
「なんで?そうだね、なんでだろうね?」
「帰りたい?うん、帰ろうか」
黒い霧は少女と会話しているみたいだが、少女の声は聞こえない。
「さぁ、目を閉じて眠ろう…大丈夫、今は全て忘れて眠るんだ」
少女はゆっくりと眼を瞑る。
「良い子だね、後は俺が……いや…私が、全て終わらせて来るから…ゆっくりおやすみシェリー」
黒い霧は少女の頭を優しく撫でると、少女の中へと吸い込まれいく。
少女の身体が淡く光だし、耳と尻尾の毛先が淡い水色から濃い紅へと変色していく。
光が収まると、少女はゆっくりと眼を開く…その瞳も紅く染まっていた。
〈side?〉
目を覚ますとそこは、かつて私達が過ごした家だった。
「シェリー…?」
私を呼ぶ方へ顔を向けると、綺麗なお姉さんが戸惑いながらこちらを見つめていた。
「初めまして、私はクオン、大和の国の巫女、クオン・キサラギと申します、私達の命をお救い下さり感謝致します」
私はそう言って両手を眼前に掲げながら膝を折り、大和における最高位の礼をした。
「クオン…?大和…?巫女…?…えぇっと…?」
お姉さんは急なことに頭が追い付かないのか混乱している、まぁそうなりますよね。
「いきなりの事で混乱させてしまいましたね、これは失礼しました…後程改めて説明させて頂きますのでまずは…」
バン!!
私が話し終える前に勢いよく扉が開き、騎士が入ってきた。
「リラさん!大丈夫ですか?今部屋から凄い光が……はっ⁈」
騎士が飛び込んで来たと思ったら、こちらを見た後慌てて顔を背けた、少し顔が赤い。
それもそのはずだ、私は今、お姉さんの手によって着替えさせて貰ってる途中…つまり裸だったのだ。
「ハッ!…とりあえず私は大丈夫だから、君は外で見張り!!」
「し、失礼しましたー!!」
我に返ったお姉さんが騎士を部屋から追い出してくれた。
「色々と聞きたい事があるけど、まずは身体の手当とお着替えを終わらせましょっか」
お姉さんは、私の着替えを持って戻ってくると、手当てを始め出した。
「お気遣いありがとうございます…それと、お手数をお掛けします」
それから暫くして、手当と着替えが終わりひと息付いた頃、扉から誰かがノックする音が聞こえた。
「入っていいわよー!」
お姉さんが返事をすると扉が開き、先程とは違う男性が入ってくる。
「俺が離れてる間にそっちも色々とあったみたいだな…色々と…」
長い紺色の髪で、白いシャツと黒いズボンに黒いコートを羽織った男性が私を見て一瞬驚いたようだが、そう話した。
「って事はそっちも色々あったみたいね、それとジークも着替えたんだ?」
「まぁな…服は悪いとは思ったが村のを使わせて貰った、もう騎士団じゃないしな…それで?一体何があった?」
2人の視線が私に当たるので、私は姿勢を正し話し始める。
「順を追ってお話しますが、まずは改めて私達の命をお救いになり、ありがとう御座います、リラさん、ジークさん」
私は再び礼をした後、2人が黙って私の話しを待っているので続きを話す。
「まずはこの身体についてご説明しますと、この身体には2人の魂が御座います、一つはシェリー、この村でアリシアと共に育った魂です」
私はそこで一度言葉を区切る。
「そしてもう一つの魂が私、大和の国の帝の娘であり大和の巫女クオン・キサラギの魂です」
立ったまま話を聞いていたジークだったが、長い話になると感じたのか、壁に歩いて行き寄りかかる。
リラも私に向き合う形で座り直した。
「それじゃあ今のクオンの魂が本来の身体の持ち主って事か?」
ジークが私に問いかけくる。
「その認識で大丈夫です」
私は嘘をつく。
本当はシェリーとして過ごした魂こそが大和の巫女で、俺は異世界から来た人間だ。
4年前のあの日に俺はこの世界に来た、シェリーが発動した魔法陣の暴走により本来在るべき効果とは違う効果が発動したんだ。
シェリーが使ったのは招来術式と行って、陣の中に居る人物を違う場所へ送る魔法、つまりテレポートみたいな魔法だ。
それが幼きシェリーの練度不足と巫女の力の膨大な魔力により、暴走したのだ。
その結果、何故か現世で死んだはずの俺の魂を引き寄せて転移し、あの森へと到着した。




