非常事態
〈sideアリシア〉
数刻前
私はベットでまだ眠るシェリーの頭を撫でて、頬にキスをする。これがいつも朝起きて最初にする日課です。
寝巻きからいつものローブに着替えると、起こさないようにそっと部屋を出る。
ウォーターボールで桶に水を張り、顔を洗う。
今日でシェリーと出会って4年になる、シェリーが来てからは、毎日が充実していて、この4年はあっと言う間に過ぎた気がする。
自分の分の朝食を用意して食べる。
シェリーの分は、「私も早くママみたいに強くなる為に森で狩って食べる!じきゅーじそくなの!」って言って最近は森で食べてるみたい。
私は片付けを済ませると、家を出て村の離れにある教会に来た。
私は今、冒険者を引退してこの村でシスターをやってます。
まずは教会前のお掃除から始める。
お掃除が終わると次は教会の中のお掃除。
それも終わると……村の方が騒がしい、寝坊助さんのお目覚めだ♪
私は女神像の前に跪き、胸元に下げてあるロザリオを取り出してお祈りを始めた。
女神エステリア様、いつも私達を見守って下さりありがとうございます。
今日も私の愛娘のシェリーのお話を聞いて下さい。
この4年でシェリーは、とっても成長した。
半年もしないうちに言葉を覚えて、次は村の為に働きたいって…出会った時からだけど、この子はびっくりするくらい手がかからない子だった。
我が儘1つ言わず、周りの状況を良く観ていて、今自分が置かれている立場を理解して、何をしなければいけないかをちゃんと選んでいた。
ママ的には、もっと我が儘を言って欲しいんだけどね?
それから村の人とも積極的に交流をして村に馴染むのも早かったかな?
すぐ村の人気者になったね。
特にミラとアルバートの2人とは特に仲良しだった。
アルバートが調子に乗って変なことをして、シェリーが真似をする。そしてそれをミラか私が注意するのがいつもの日常。
特に最近は、お転婆さんになってきていて、いつも元気いっぱいです。
それからアランさんとミラの剣術の稽古を見て、シェリーもやるようになって、村長から身を守る術は教えておくべきだと言われて、本人もやりたくて仕方がないって感じだったので教え込んだ。
そこからが凄かった、水を得た魚のようにどんどん剣術も魔術も覚えていって今はもう1人で森に行っちゃうんだもん。
最初の頃は、魔物と対面しただけでビクビクしてたのにね。耳がぺたーんって張り付いて、尻尾も足の間に潜って…可哀想なのに可愛いくて可愛いくて…。
こほん!…それからだったかな?紋章に付いて分かった事があって、紋章に魔力を流すと、幾つかの効果がある事が分かりました。
1つ目は、どちらかが魔力を流すと2人とも紋章が光る事
2つ目は、魔力を流すと身体が強化される事
3つ目は、魔力の量が増大する事
1つ目の効果は離れて居ても連絡をとる手段として使える事にすぐ気付いた、緊急時のサインに使えると。
2つ目の効果は緊急時に身を守る方法として有効な手段ね、危険を排除するにしても逃げるにしても。
3つ目の効果が凄い、純粋に魔法自体の威力はもちろんの事、魔力自体の量が増えるから、魔力が切れるまでの魔法を使う回数もぐーんと増えるんです。
この効果のおかげで、シェリーの生存率が上がりかなり助かりました。
あの子に、今のこの世の中は色々と厳しいですから…
もう沢山辛い思いをしたと思います、どうか女神エステリア様のお導きで、あの子の道を照らしてあげてください。
今日もまた、健やかな1日を迎えらますように。
「ふぅ…大分話し込んでしまいましたね、女神エステリア様、申し訳ありません」
私は女神像の前で一礼すると教会の外に出た。
「おはようシア、今日もエステリア様に娘自慢?」
ミラがこちらに歩きながら言ってくる。
「おはようミラ、って!ちょっとちょっと!もう少し言い方があるでしょ〜?……ちょっとだけです!」
私は目を逸らしながら答える。
「それにしては随分と長かったような…?」
「ミラ!もぅ…今日のミラは意地悪だぁ…」
私はしゅんとしながらミラを見つめた。
「ごめんごめん!私が悪かったから拗ねないでよ〜」
ミラが両手を合わせて謝ってきた、もう!
「シェリーもう森に行っちゃったよ?プレゼント渡すんだーって張り切ってたわよ!」
「ふふっ…今年は何が貰えるのかしらね?」
シェリーは、毎年私にプレゼントを用意してくれる。
最初は、ブルーピヨットの飾り羽根。
これは持っていると幸運を呼ぶと言われてる。
東の森でたまに見かけるくらいのレアな魔物の羽根。
2年目は、クォーツリザードの逆鱗。
これもレアな魔物で逆鱗は、長命や健康などのご利益があると言われてる。
去年は、フェアリーラビットの毛皮で作った巾着袋だった。
フェアリーラビットは凄く希少で、その毛皮は純白や変わらぬ愛などの意味があるんだけどね。
貰った時は、娘にプロポーズされちゃったーってはしゃいでたっけ?
意味を教えたら慌てて、耳と尻尾がピーンと伸びて真っ赤になっちゃって…。
これは全部私の宝物。巾着袋に入れて取っておいてあるんだよ?
「内緒だって、シアはプレゼント何をあげるの?」
「今年はね、これにしたの。」
私はローブの中から、小さな木の箱を出して開けてみせた。
「わぁ〜!ロケット?中には何が入ってるの?」
「お守りよ、大切なね?」
私はそう言って木箱を戻そうとした時だ、左手の紋章が突如光だした。
「!!!」
「シア!森へ!!私は村長のとこ行く!!」
ミラがそう言うと走り出す。
「分かったわ!」
私は教会の壁に立て掛けてある杖をつかむと森に向かって駆け出した。




