1話
不機嫌度合いマックスでステーキを噛み千切るように食べるシャル・プロムウェルさん、肉体的には十五歳。
(でも、胸は確実に小学生……)
ギロ! とシャルが睨んできた。
「馬鹿にした雰囲気を感じ取ったんだよ」
勘、鋭い。
一つ、咳をしてから。
「そういや下着ってどうしてんの?」
シャルの今の服装はシャツとハーフパンツ。
霊時とシャルの身長差は頭二つ分はあるためにシャツはぶかぶかで激しい運動をすれば、ズレ落ちそうな気がする。
わなわな、と肩が震える。
「か」
「か?」
「関係ないよ! 霊時は全く関係ない!」「え? いやでも、下着とか洗っちまったし……」
「このハレンチ霊能者ぁぁぁぁぁ!」
顔をタコもかくやというくらいに赤くして霊時に飛びかかって来た。
瞬間。
素肌の胸が襟元から見えた。
ぶかぶかな為、襟元から中の様子がバッチリ見えてしまうのだ。
――まさか!
飛びかかって来たシャルが霊時を押し倒してチョップ。
「いてっ! 何すんだ!」
「私の本当の得意技は締め技だったりするんだけど、霊時は喜びそうだから打撃にしてるんだよ!」
鳩尾にパンチ。
「お前の得意技聞いてねぇ! つーか噛みつきじゃなかったのか!?」 素肌の胸が指すという事は……?
そんな、単純なくらい単純な謎は迷宮入りの事件としてファイリングさせて貰った。
「何で霊になったのか分かりますか? プロムウェルさん」
顔を腫らした霊時が敬語で取り繕うように言う。
シャルは「う~ん」と唸ってから首を振って言う。
「分かんない」
ガクリ、と肩を落とす。
たまに居るんだよな。
何で自分が霊になったか分かんねえ奴が……。
シャル・プロムウェルは霊時のがっかり具合を見て慌てて、
「私の事はシャルって呼んで欲しいな!」
「んじゃあ、今一番の望みって何?」
霊時は華麗にスルーして言う。
シャルはむすっとしながらも言う。
「饅頭」
「へ?」
そして、怒り顔は綺麗サッパリ消えて、
「饅頭をお腹いっぱい食べたいっ!」
キラキラ笑顔。
「俺の夢は野球選手!」とか言う野球少年以上の笑顔で言った。
霊時は呆れを通り越して怒る。
「何だそりゃあ!!? ナメてんのかテメエ!」
「ナメてなんかないわアホー!」
本気で罵っていると思っているのだろうふふん、と邪悪に笑う。
「お前、アホー! って……いやいいけどさ」
毒気が大分抜かれた霊時は曖昧な笑顔を浮かべて。
「まあ、いいや。何で霊になったのかいつか分かるだろ」
大体、実霊になる時点でその思念は強いのだ。
無意識にでもその『思念』が行動となって現れるだろう。
ごろん、と畳に転がってテレビを点ける。
男女が抱き合って愛の言葉を囁き合っていた。
恋愛ドラマだった。
裸を完璧に見た上に今から一緒に住む恋人でもない女の子と二人で見るような番組ではない。
別のチャンネルに変える。
ホームドラマだった。
これなら許容範囲かな? と思いながら横目でシャルを見やる。
遠い物を見るようにテレビを見ていた。 ◆
「寝る時ってどうするの、ふぁ……」
親睦会、と称しトランプをしたり、将棋をしたりした効果なのかちょっと仲が良くなった気がする。
外国人であるシャル・プロムウェルが将棋を打てるなんて全く知らなかった。
好物は饅頭だし、ジャパンマニアかコイツは?
「あ~、そうだな。ここで二人で寝るしかねえよなぁ」
「なっ! そんなの聞いてな――」
「おおっと! 俺に言われても困るのですよ! 何故ならば一部屋しかないんだから!」
「う゛ぅぅぅぅ」
涙目で唸る女の子。
罪悪感に押し潰されそうです。 ◆ 重圧と蒸し暑さで、霊時は起きた。
重圧の原因を見て――女の子みたいな悲鳴を上げかけた。
「んあ!? なななななな! 何でコイツと寝てんだ俺ァ?」
シャルが霊時の腹の上で気持ち良さそうに寝ていたのだ。
腹の上には胸。
迷宮入りさせた素肌の胸事件が一瞬にして解決した。
くらり、と霊時の頭がふらついた。
シャルを起こそうと思ったが止めた。
顔を真っ赤にしながら殺されるのはごめんだと思ったからだ。
「取り敢えず脱出だ!」
まずは、太ももに部分に背中がくるように優しく転がす。
途中、「ん」とか言った時は死を覚悟した。
そして、何事もなく脱出完了した。
つーか、どうやって布団の中に潜り込みやがった?
寝相が凄い悪いだけじゃあ、済まされねえぞ?
そんな事を思いながら、パンを焼きバターを塗り砂糖を振りかける。
パンを食い終えると、鞄の中に勉強道具を詰め込み、気付く。
あ、シャル (シャルのお願いはしっかり聞いている) の昼飯どうしよう?
只今の時刻は七時五十分。
家を出るのが八時。
間に合わない。 ……理事室! 理事長のご依頼で三回学校に巣くう悪霊を浄化させた事があったのだ。
そう、もしかしたら受け入れてくれるかも!
一気に突破口を見つけた霊時はシャルをたたき起こして理事室のある学校に向かうのだった。