第82咬―報い時
このままりんかい線の線路沿いを行けば港湾地区に通じるエレベーターがある。
そこにはもう前もって船を用意してある。
それでロシアに入国し、飛行機でフランスまで逃げれば私の勝ちだ。
ラミアはオルトロスを始末できただろうか・・・。
いや。
無駄な楽観を持つのは止そう。
❝称持ちの殺し屋❞2人分の力を持つ殺し屋であれば、いかにラミアであっても仕留めるのは、無謀の極み。
良くて相打ち・・・といったところか。
彼女を失うのは手痛いが、これもこの世界の改革のため。
涙を飲んでその尊い犠牲を受け入れよう。
とにかくこれで、私も❝最神議会❞。
この世界の覇権を裏から、真に握る者達の仲間入りだ。
私には、これからやらねばならないことが山積みだ。
手始めに、オルトロスを永遠に仕事ができないようにしてやろう。
すでに準備は済ませてある。
しかし急を要しての事案だった故、避難の後に書き換えねば。
このままではトリガーは・・・。
ん?
今後ろで何か物音が聞こえたような・・・。
こんな暗がりを一人で歩いているせいで、年甲斐もなく臆病になってしまっているのか?
フッ・・・バカな。
早いところこんなところ、抜け出してしまお・・・
「ぁ・・・。」
私の前に立ちはだからる者達がいた。
双頭の狼の名を冠する人殺し。
私の、死・・・。
◇◇◇
『やあアベル。』
俺達を前にしたアベルは恐怖でガタガタ震えて、脂汗をダラダラかきだした。
『私の部下は・・・?ラミアは!?』
『全員喰った。残るはお前。』
美玲が拳を握ってアダムに迫ろうとした瞬間、奴は声を荒げて制止した。
『まっ、待て待て!!私を殺すのか!?それがこの世界のためになるのか!?!?』
『なに?生かしておいたら世界が良くなるっていうの?』
『当たり前だろッッッ!!!私は、これから❝最神議会❞の一角として並存世界の資源と技術を多く取り入れ、この世界の発展のために粉骨砕身する身!!今の国際社会を見ろ!!不足してゆく食糧!枯渇する化石燃料!取り尽くされる鉱業資源!それが社会に格差、飢餓、そして戦争を生み、人々は地球に存在する限られた資源を奪い、殺し合っているではないか!!無能な表向きのリーダーは再生エネルギーや循環資源という楽観を持ち、いずれ、しかし確実に来る崩壊の未来から目を背けている!!嘆かわしい限りだ!!もはやこの世界に、使える資源は残されていないッッッ!!!並存世界の新しい食料、鉱石といった資源!そしてそれを半永久的に使用できる技術さえ手にすれば、地球と人類の未来は約束される!!私は地球社会存続の一助となる人間、アダム・フェリエだ!!私を殺すことそれ即ち、人類に暗雲漂う未来を投げつけることと同じなのだぞッッッ!!!』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『よく喋んね。』
演説かましたアベルに美玲はつかつかと歩み寄ろうとした。
「ちょっと待て美玲。」
「なんよ?」
『アベル。じゃあ一個聞きたいことがある。』
『何だ!?』
『これからの社会のためなら、お前は何でも犠牲にする覚悟か?』
『勿論だ!!』
『じゃあさ~・・・。』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『お前が落とした飛行機のせいで死んだ俺らの学校の奴等。あれも勘定に入る?』
『たかが数百人の凡人だろ?必要だが微々たる犠牲だ。』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
首を軽くクイってやって美玲にサインを送った。
美玲はアベルの腹を拳で貫いた。
『がぼっ・・・?!?!ふぅぅ・・・!!』
美玲にどてっ腹をブチ抜かれたまま、アベルは俺の前まで連れて来られた。
『なっ、何を・・・?!?!』
『何でも犠牲にするって言ったよな?』
その言葉の後、俺はアベルの首を斬り飛ばし、美玲は胴体をコンクリの壁に投げつけた。
首の断面から血を噴いて、アベルの首無し腹開き死体が泥水滴る地下鉄の路線に転がる。
「「怨み・・・喰わせて頂きました。」」
俺と美玲は静かにその場から去った。