第78咬―喉笛に
「自分らの首に懸賞金?」
俺は御屋形様に全部話して事情を分かってもらうことにした。
「はい~・・・。そうでして・・・。」
「で、いくらなん?」
「3億ユーロ・・・。」
御屋形様は首を傾げた。
外国通貨と一切関わりがない国だから無理もないか。
だけど師匠だけは違った。
「500億円でございます。」
「あらら。そりゃまたぎょ~さん積まれたなぁ。」
「火遊びが過ぎるからそんなことになるのだ。いい薬だ。口苦しいがな。」
「あはは。頼太のお師匠さん上手いこと言いますね~。」
「おい麦太郎。この娘は常にかような呆け顔を?」
「ちょっとネジ飛んでるんですよコイツ。」
「窮地にそぐわぬ肝の座りよう・・・見習うところがまた増えたな?」
なんで俺下げのシチュになんの?
「まぁトビ。そう苛めたらんで。そんで?協力してほしいことって何?」
・・・・・・・。
「俺とコイツの学校に飛行機落として、さらにふざけた賞金かけた男・・・アベル・フェリエに近づく手助けを。」
頭を下げる俺に、御屋形様は変わらず優しい眼差しを向ける。
「何をすれば?」
「国中に散らばしたここの忍びに、奴が今どこにいるかとそこへの最短ルートを探らせるだけで十分です。あとの始末は、俺とコイツでやります。」
頭を下げ続ける俺を見て、我慢できなくなった美玲も同じようにする。
畳しか見えないけど、重苦しい空気が流れてるのだけは、ビシビシ伝わってくる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「何を出せるん?」
「え?」
「タダで手伝うワケないやん。こういうのは、ぎぶあんどていくっていうんやろ?」
やっぱそうきたか。
御屋形様は関西のお人。
つまり商人気質。
タダで手に入る物なんかないっていうことを教えたいんだ。
最適解は決まってる。
「お望みならなんでも。金でも、力でも。」
頼み込む以上、こっちが立場が下ってことをアピールしなくては。
「そう?じゃあ~・・・あ。」
何か思いついたようだ。
「凪の遊び相手、紹介してくれへん?」
「へ?」
「ほら。凪ってお姫様やろ?同世代の子と遊ばせたいねんけどな~。如何せんみんな萎縮してもうて。」
「わたくしではご不満で?」
「そんなんちゃうよ。いつも頼りにしてる。気分転換よ気分転換。」
なんか思ってたよりあっさりした交換条件だな。
でも凪様の遊び相手か~!
誰かいい子・・・
「お殿様。私に心当たりが。」
美玲がスッと挙手した。
「誰なん?」
「私と頼太の娘です。」
「は!?美玲!!ちょっとまさか・・・!!」
「ヒナにも同年代の友達いなかったからちょうどいいじゃん。」
「だからってわざわざ・・・!!」
「へぇ~麦太郎その子と子ども作ったんや。」
「いっ、いえ!!あくまで養子として引き取っただけでして!!」
「なんや・・・。」
なんでちょっとガッカリしてんだよ~・・・。
「そこで、紹介するにあたりお一つご確認したいことが。」
「なになに?」
「そちらのお姫様は、柴犬はお好きですか?」
「ん?なんでそんなん聞くん?」
「何かと訳アリの子、でして。」
「うち、めっちゃ好きやで柴犬!!」
「そうですか~。それはよかった~。」
あ~これもう紹介するしかない流れだぁ~・・・。
◇◇◇
城の客間でお茶を飲みながら待ってると、ここまで案内してくれた尼さんが来た。
「失礼します。件の男の居所が分かりました。」
「もうですか!?」
もっと掛かると思ってたんだけどな・・・。
「どこに?」
「東京です。」
・・・・・・・。
「ここ?」
「ええ。昨日の最終便での入国が確認されました。東京科学未来館で本日より開催される特別展のオープニングゲストとして出席するそうです。ですが閉館したにもかかわらず、館内に複数の人物が出入りしている痕跡があります。」
「頼太、これ・・・。」
「最神議会の就任パーティだな。」
俺達の国でやるなんて・・・。
ナメてるとしかいいようがないな。
「目的地までの秘密の道へとご案内しますのでどうぞこちら。その前に、御屋形様より言伝です。❝ヒナちゃんと会うん楽しみにしてるで。❞と。」
・・・・・・・。
「凪様にいっぱい汗かかすって伝えといて下さい。」
「承知。では。」
俺は刀を腰に。
美玲はガントレットを手にはめ立った。
「やろうか美玲。」
「そうだね頼太。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「「カスフレンチ野郎の喉笛喰い千切ってやる。」」