第68咬―馬と蛇
クロノスの最期を見届けた俺達は、急いで退散の準備を始めた。
「よし。開いた。」
「じゃあ私から。」
パウダールームの前に、昔使われていた巨大水路に続くハシゴが隠されていた。
聞けばここを建てる際に残ってた物を、有事の際の避難ルートとして残していたらしい。
隠しマンホールに美玲が入って20秒くらいがして、俺も中に入ろうとした時だった。
『頼太?』
階段の上から声が聞こえたからハッと顔を上げると、見知った顔がいた。
セミロングの金髪。
年は俺達と同じだが、ゆうに190cmは超えてる筋肉質なイタリア男子。
❝ケイローン❞
称持ちの殺し屋の更に上、最神議会のメンバー専属の殺し屋である、❝最高神の告者❞の一人だ。
彼らはお付きになった議会のメンバーのコードネームとなった神の眷族や、子の聖獣の名を与えられる。
彼の元となったのは、神クロノスの息子であり、森の賢者として名高いケンタウロスだ。
『こんなところで何をしている?』
『別に。』
『そういえば聞いたぞ?お前達、アベルの飼い犬にされたみたいだな?』
『ああ。不本意ながら・・・な。』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『クロノス様をどうした?』
明らかに怒気のこもった問いを、ケイローンは俺に投げかける。
『すまない・・・。』
しばしの沈黙・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ケイローンは袖に隠していたボウガンを俺に発射した。
俺は急いでマンホールに飛び込み、ハシゴを下ることなく下まで落下した。
❝ドスン!!❞激しく着地した俺に、美玲はビックリした。
「どうした?」
「ケイローンだ!!逃げるぞッッッ!!!」
もはや悠長に構えてられないと察した俺らは、元来た道を全速力で引き返した。
「なんで見つかったの?」
「入ろうとしたらアイツが声かけてきたんだよ!!」
「無視すれば良かったのに。」
「あんなことがあった後だぞ!?相手にしないことなんかできるかッッッ!!!」
くそ!!
これがクロノスが言ってた、自分が死ぬことで起きる暗雲ってヤツか!!
早速俺達に会いにきやがったッッッ!!!
地上まで残り半分となったところで美玲がまた話しかけてきた。
「もう歩いてもよくね?5kmは走ったっしょ?」
「お前はアイツの恐ろしさを忘れたんか!?!?」
「そだった・・・。」
ケイローンは100mを7秒で走って、それと同じ距離に離れたコルク栓を射貫くほどの遠距離武器の達人だ。
正直俺と美玲が本気で戦っても、勝てる確率は半々。
だったら・・・できるだけ遠くに・・・!!
そう思って走るスピードを更に速くしようとしたところ・・・。
『ご苦労様、オルトロス。きししっ・・・!』
薄気味悪い女が屈強な男どもを引き連れて待っていた。
『お前、アベルのトコにいた・・・ラミア。』
『覚えてくれたようで?ししっ・・・!』
『出迎え・・・ってワケじゃなさそうだな?』
『はい~。そちらさんが余計なことを言わないように・・・仕事のお礼を渡しに~!』
男たちは銃を抜き、ラミアは両腰から折り畳み式のチャクラムを取り出した。
「時代劇みたい。」
アホなことを言ってる美玲をほっといて、俺はラミアに状況を説明しようとした。
『生憎お前らと殺り合う余裕なんかない!!今俺達はなぁ・・・』
そう言いかけた瞬間、ラミアの手下の男の首が、どっかから俺の後ろから飛んできた弓矢で飛ばされた。
「ッッッ!!!」
急いで振り返ると、般若の如き形相で弓を持って、ゆっくり歩いてくる、ケイローン・・・。
『そこのオオカミ二匹は俺の獲物だ。邪魔する奴は、全員射貫く。』