第65咬―新の武
アベルの依頼を受けた俺達は、ある人物に会いに並存世界でクランの拠点になってるホテルに戻った。
「オルトロス様。」
受付でフロントガールをやってたへびまるちゃんは、俺達のことを見るなり全て察したようだった。
「エキドナは?どこだ?」
・・・・・・・。
「支配人室に。」
しばらく間があって、へびまるちゃんは深みのある口調で答えた。
支配人室に行くと、エキドナは商人から受け取ったビンを見ていた。
無色透明な液体・・・毒か?
「ああ・・・いい出来だ。水と全く区別がつかない。それじゃあこれを、いつものルートでキマイラに納品してくれ。」
火炎放射用の燃料だったか。
アタッシュケースを持った商人がすれ違いざまに一礼し、視線を戻すとエキドナはテーブルの上で手を組んでこっちを見ていた。
「お前達が言わんとしていることは分かるよ。それで?何を命じられた?」
「ベアトリーチェ・カパルディ・・・クロノスの暗殺。」
美玲の返答に、エキドナは感慨深げに目を閉じた。
「そうか・・・。」
「やっぱあんたにもくるモンがあるか?子どもが友達を殺すことに。」
エキドナとクロノスの関係は長い。
俺達の加盟クラン・タルタロスの設立にも色々と援助をしてくれたみたいだ。
実は中学の頃、まだ無名だった俺と美玲は彼女に何度か会ったことがある。
言ってしまえばクロノスは、親と仲がいい知り合いのおばちゃん・・・みたいな認識だった。
「こうなるって予想できたか?」
「思わなかった・・・と言えば嘘になる。」
「分かった上でアイツに令鎖を渡したってことでいいか?」
「お前達の学校に飛行機が落とされることまでは考えつかなかったさ。だが・・・何かしらの責め苦を負うとは、思っていた。」
それが聞けて、ざまあみろって思った。
だって結果的に、古くからの友達を失うことになるんだから。
「だったらイーブンな?」
「そうなるな。私に会いに来たのはそれを言うためか?」
「違う。あんたなら知ってるだろ?俺達がクロノスを殺せる絶好のチャンスを。教えろ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「二日後の夜、この国の資源管理省の邸宅で関係者を交えたパーティをやる。彼女はそれに出席する。そこが狙いだ。」
「サラッと教えるんだ?」
「私はクラン代表だ。掟に私情を挟むつもりは毛頭ない。それに・・・クロノスもその時が来れば甘んじて受け入れるだろうさ。」
聞くことは聞いたので、俺達は支配人室を出ることにした。
「オルトロス。」
ドアを開ける直前にエキドナに呼び止められる。
「殺し屋の掟を逸脱しなければいい。アベルを殺す機会を手に入れたら、遠慮なくやれ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
何も返さず、俺と美玲はエキドナの許を去った。
「お二方。」
廊下を歩いているとへびまるちゃんがやって来た。
「ヘパイストス様より、ミーティングルームにお荷物が。」
・・・・・・・。
「取りに行くよ。」
◇◇◇
「ぱぱ!まま!」
ミーティングルームに入ると、ヒナが尻尾を振ってこっちに走ってきた。
だけどいつもと違う俺達の気配を察したのか、心配そうな顔をし始めた。
「大丈夫。何でもないよ。」
そっと頭を撫でてやり、俺達はヘパイストスからの荷物のところに行った。
その間にもヒナは、俺と美玲に近づこうとしなかった。
床に置いてあった包みを開けて、中身を確認する。
「やっぱ仕事できんなぁアイツ・・・。」
ヘパイストスはルビガロカの素材を、俺のオーダー通りに仕立ててくれた。
刃渡り4尺(約1m)。
鞘は毛皮で柄は骨。
湾曲した2枚の爪が左右の鍔になっていて、削られた腕刃の刀身の上半分に牙が埋め込まれている。
「こっちもすごいよ?」
美玲に作ったガントレットは、二の腕まで覆うスタイルで、手の甲にオルトロスのエンブレムが彫られ、紅色の毛皮をなめしたのと対照的に両手の部分は全体が骨で指の付け根にオオカミの爪を模したかぎ状の突起が付いている。
マリサムの持ってた剣を、いい具合に仕立て直してくれたみたいだ。
と、包みの中に一枚の紙が入ってることに気付いた。
❝怨喰刀・紅狼、砕邪手・トゥラースヘッド。❞
俺達の武器の名前か・・・。
ん?
下にまだなんか・・・。
❝使うに相応しい奴に使え。狩るべき獲物を狩れ。❞
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ああ。必ず。」




