第64咬―狼昂る
「ん・・・。あれ・・・?授業は・・・?」
目が覚めると病院の個室に点滴を繋がれて寝ていた。
おかしいな。
さっきまで数ⅡBの授業だったはず・・・。
「頼太ッッッ!!!」
「はぁ・・・良かったぁ・・・。」
父さんと母さんが泣きながら笑顔を向けていた。
「父さん、母さん?仕事は?」
「息子が大惨事に巻き込まれたというのに仕事なんかしてられるか!!」
「あんた丸二日意識なかったのよ!?!?」
「どういう、こと?」
病室の奥を見ると、頭に包帯を巻いて左腕にギプスを付けた美玲が座っていた。
「みっ、美玲・・・!!痛っ・・・!?ってぇ・・・。」
頭を鉄のバンドで締め付けられるような強烈な痛みが走る。
「頭蓋骨、肋骨4本、両足の脛骨。おまけに右肺と胃、大腸が損傷してる。無理するな。」
「美玲、教えてくれ。一体、何があった・・・?」
「黙って聞いてくれると、約束できる?」
俺が頷くと、美玲は事の顛末を語り出した。
◇◇◇
「って、ことなんだけど・・・。」
全てを聞いて、俺は愕然とした。
俺達が通う高校に飛行機が墜落し、俺の教室には衝撃で吹っ飛んだジェット部が突っ込んできて・・・俺以外のクラスメイトは全員死亡したとのことだ。
美玲の特等科の棟は俺のトコと比べると被害が軽度だったが、それでもICUに担ぎ込まれて、その先で亡くなった生徒も、ちらほら出てきてるらしい。
「学校が今後どうなるか、全く分からないって。とりあえず、事故にあった生徒らは私らも含めて長期入院だろうね。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ちょっと、飲み物でも買ってくる。先生とこれからのことについても話さなきゃ。」
「じゃあ俺は、事故の捜査に戻る。何か進展があったかも聞きたいしな。」
一人にした方がいいと考えた父さんと母さんが立ち上がった。
美玲にも来るかとサインを送ったが、彼女は遠慮した。
寂しげな表情で母さんが俺を一瞥すると、父さんに背中を押され、二人は病室を後にした。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
❝ブルルルルルルルルルルル!!ブルルルルルルルルルルルルルル!!❞
俺のスマホのバイブが鳴って、画面を見ると『通知不可能』の文字が。
『やあ頼太。具合はどうかな?』
アベル・ファリエ・・・。
声を聞いて、俺はスピーカーをONにした。
『やってくれたね。』
美玲が普段のトーンで言うが、明らかに怒ってる。
過去イチに。
『君達の学校と、学友のことについては大変気の毒だと思っているよ。』
『他人事?』
『あの事故に私が関わっている証拠があるのか?』
『墜落機にはファリエグループの最新エンジンが積んであって、お前が私らを訪ねてきた次の日に事故が起こった。誰が関わってるか、話を聞けばバカでも分かる。』
『私と君達の認識ではそれで合ってる。だが世に公表される事故原因は、サイバー犯罪組織によるテロ行為だ。私が矢面に立つとすれば、それは被害者としての立場でだ。』
『で?勝利宣言でもしようっての?』
『まさか。今回のことを踏まえて、改めて先日の依頼を引き受けるか・・・君達の意思を確認したくてね。勿論、今一度断るのは自由だ。だがそうなった場合の結果については重々承知しているだろうね?』
『今度はどんな罰を用意してくれるって?』
アベルは電話越しに不敵に笑った後、こう言った。
『君達の養父、今回の事故の現場責任者の一人なんだってね?手柄を立てた暁にはテロリストからの報復を受けないか心配だ。もしくは、検察官の彼の妻が刑期を終えた受刑者に襲われないか気がかりだ。』
アベルの言葉を聞いた瞬間、美玲は黙りこくってしまった。
『どうするオルトロス?引き受けてくれるかな?私の殺しを。』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『690ユーロ(約10万円)、あとで送る口座に送金しろ。』
『引き受ける気になったね?良かった。やはり動物を飼い慣らすには文字通り飴と鞭がいちば・・・』
俺はそこで電話を切った。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
❝バァン・・・!!!❞
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
スマホを壁に投げつけてぶっ壊すと俺は叫んだ。
❝バキン・・・!!!❞
「クソが・・・。」
美玲も立ち上がって、座ってたイスを床に叩きつけて粉々にした。
こうしてオルトロスは、アベル・ファリエの犬になった。




