第61咬―乱来る
「いや~結構買ったなぁ。」
学校帰りの電車の中で、俺は手に持ったデパートの袋たちを掲げた。
「結局買えなかったね。酒。」
「しょ~がねぇ~よ。だって俺ら未成年だもん。親へのプレゼントって言っても店員さんちょっと困惑してたじゃん?最近ああいうのうるさいって聞くし。後々問題になった時に真っ先に店側に責任が飛んでくから。へびまるちゃんに上等なのを手配するように明日言ってみる。」
「そうするか。」
季節は11月中旬の秋の終わり頃。
実はもうすぐ、俺らの養父母の結婚記念日が来る。
どうして子どもの俺らが2人に記念日用のプレゼントを買おうと思ったのか、別に深い意味はない。
ただ単純に、たまには俺らから何か贈ってみようかなって出来心が湧いただけだ。
もしかしたらどこかで、普段しないことをして驚かせてみよっかな~ってイタズラ心があったのかもしれない。
とにかく小さい頃の俺らを里子として受け入れ、17になるまで育ててくれた夫婦にせめてものお礼がしたいと考え、慣れない百貨店での買い物をした結果、時間は19時をオーバーしてしまったのだが・・・。
家の最寄り駅に着き、ドアが開くと、俺達は街灯に微かに照らされた家までの道を歩いた。
「そろそろ期末テストの勉強始めなきゃな~・・・。」
「中間みたく欠点ギリギリの点数取ったらさすがにマズいもんね?」
「そうなんだよぉ~!なんでこんなことになったんだろ~・・・。」
「普段からやっとかないからでしょ。ツケが回ってきたってことで。」
「なに諦めムード出してんだよ!?まだ一ヵ月もあるんだぜ!?まだ挽回のチャンスはあるよ!!」
「もう一ヵ月しか残ってないの言い方が正しいんじゃない?今から勉強したって頼太の脳ミソじゃとても追いつかないよ。」
「なっ・・・!!!」
「はぁ・・・。頼太はもう一年2年生をすることになるのか・・・。哀しき哀しき。」
「手を合わすなッッッ!!!縁起でもねぇッッッ!!!」
と、ワイワイやってる内に家まで着いた。
だけど目の前の光景に、浮かれてた気分が一気に張り詰めた。
家の前を、明らかにヤバそうな黒の外車が3台停まってるからだ。
「なんじゃありゃ?」
「知らん。」
キョトンと固まってる俺らに気付いたらしく、中央の車の前に立ってたアゴ髭オールバックのガタイのいい男がドアを開けた。
中から出てきたのは、ロマンスグレーの七三分け、しかもとびきりイケメンの30代前半くらいの男。
ストライプのスーツをピシっと着こなしてることから、よほどの上流階級の人物だとうかがえる。
「Bonsoir, Orthose.(こんばんは、オルトロス。)」
フランス人?
『会えてとても光栄だよ。まずは急に押しかけたことを謝る。』
『それで・・・どちら様ですか?』
『これは失礼。❝アベル・シャリエ❞・・・と言えば分かるかな?』
ッッッ・・・!!!
フランスに本社を置く多国籍自動車メーカー、シャリエグループの御曹司か・・・!?
『超有名人じゃん。』
『そちらのお嬢さんは落ち着いてるね。私の名前を聞いて平静さを保った人間は初めてだ。』
『お褒めの言葉どうも。それで?何のご用で?』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『仕事を頼みに来た。君達の腕を見込んで、ある人間を殺してもらいたい。』