第56咬―恐宝剣
マリサムの眉間に❝ビキッ・・・!!❞と一気にぶっとい血管が浮き出る。
一方的な処刑宣告がそんなに気に食わなかったか?
「下等な獣に肩入れし・・・!!己の務めを放棄する気かぁ~!?!?」
あ、違った。
「騙して契約取っといてよく言うわ。顔にシワ入ってんのに脳ミソはツルッツルなんだな。」
「~~~!!!おいッッッ!!!あのバカを黙らせろッッッ!!!貴様の男だろうが!!」
「男じゃない。それに依頼管理は全部頼太の担当なんだわ。私が言ったって聞かないよぅ。」
美玲も煽る煽る。
「どうやら貴様らには、俺の崇高な理念は分からないようだな。」
「崇高?」
「そうだ!この世に剣の時代を取り戻すという大義だ!!フン!まぁ無理もない。貴様ら所詮転移者。しかも金で殺しをする下賤な連中だ。分かるはずもあるまいて。」
「ああ分かんねぇよ。」
あっさり答えた俺にマリサムは目を大きく開いた。
「なに?その反応?否定してほしかった?でも全っ然わっかんねぇんだよ。あんたのその大義ってヤツが。ってか分かりたくもねぇんだわ。」
「なんだと・・・?」
「あんたは知らないだろうが、俺達のいる世界じゃ大義だ正義だなんだと抜かして、他の奴に平気で石を投げたり根も葉もないウワサを言いふらしたり、時には殺人すらもやってのけるクソ野郎が、歴史上にも今にもいっぱいいたんだわ。やられた方は、やった方がそのワードを免罪符みたいに使ったって思ってるみたいだけど、俺の意見は違うな。大義と正義って言葉はな、ピッカピカに輝く剣に見えるんだよ。人を魅了して、どんなものでも斬ってしまえる、まさに宝剣だな。でもな、どんなに光輝くお宝の剣でも剣である以上人を殺すって側面がある。使ってる奴はそれに全く気付かず、ウキウキにそれを振り回して、色んな人を斬っちまうんだ。たとえそれが・・・自分にとって大切な誰かであってもな。そんな恐ろしい剣、俺でも使いたくねぇよ。だから俺は、そんな御大層なモンは持たない主義なんだ。」
俺は虫の息で、俺達の動向を見届けるルビガロカに目をやった。
「目に見えない光る剣を握ったトコで、世の中が変わるワケじゃないし、そんな傲りも持ちたくない。だったら俺は、目に見えて本当に斬れる剣で、困った誰かから金もらって代わりにそいつが憎む悪を斬った方が、よっぽど気が楽だ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「愚かな。」
「なにが?」
「真の剣豪たる者、剣が衰退した世にこそ大義を持ち、再び剣が栄華を誇った時代を取り戻すのが責務というもの・・・。貴様は剣豪の風上にすらおけぬな。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
分かんねぇヤツだな・・・。
「だがその下卑た思想に似合わぬ才覚を、貴様は持ち合わせている。俺について来ないか?俺なら貴様を、正しき道に導くことができよう。」
❝ヒュン・・・!!!❞
「ん?」
「こいつぁ~驚いた。岩鱗丸より手に馴染む・・・。」
「何を・・・?ひっ・・・?!?!あ゛っ・・・!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!」
通り過ぎざまに、俺を引き入れようと出された手の、手首から上がバッサリ斬り落とされてるのに気づいたマリサムが絶叫した。
「美玲!コイツ・・・俺が独り占めしてもいいか?胃にもたれそうだが美味そうだ。」
「いいけど、ちょっとは残しといてよ?」
「ああ。お前の取り分は用意しとく。さて・・・。」
剣を持った右手で、マリサムは斬り落とされた左手首を押さえて必死に止血しようとする。
「ふっ・・・!!ふっ・・・!!ふっ・・・!!」
やはり殺すべき奴を相手にすると、技が軽やかだ。でも身体の一部をそのまま剣にするのは初めてなのか・・・ルビガロカの思いが頭に流れ込んでる感じがするよ。
❝妻と子の無念を晴らしてくれ。アイツに苦痛と恐怖を・・・!!❞ってな。
それはルビガロカの怨みか。
いいだろう。
「ゆっくり殺してやるよ。バリバリと、噛み砕くみたいにな。」