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第55咬―新依頼

突然現れたかと思うとルビガロカを殺したマリサムさん。


固まってる俺をよそに、ストっとルビガロカの背中から降りた。


「どっ、どうして・・・ここに・・・?」


「やはり妻を殺した奴を、自分の手で葬りたいと思いましてね・・・。あっ!もちろんお二人のことを信用していなかったわけではないのですよ!?ただわたくしが、己の中の怨みを抑えられなかっただけです。申し訳ない・・・。」


しゅんとした顔でマリサムさんは頭を下げた。


最初に面談してから、相変わらずの物腰柔らかな態度だ。


「では、これで。協力して下さり、誠にありがとうございました。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「ッッッ・・・!!!」


その場を離れようとするマリサムさんの背中に、俺は刀を突きつける。


「頼太さん?これは一体・・・?」


「もう下手な芝居しないで下さいよ。アンタ・・・俺らをハメましたね?」


()()()?何の話ですか?」


「とぼけないてもらっちゃあ困るな。()()()()んだろ?」


「逆?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「ルビガロカがアンタの奥さんを殺したんじゃない。アンタがルビガロカの奥さんを殺したんだろ?」


「何を根拠に言ってるのですか?」


「手に持ってる(それ)が動かぬ証拠だ。そもそもそんなの見せびらかしてるってことはアンタ・・・最初(ハナ)から隠す気なんてなかったろ?」


「・・・・・・・。」


「違うなら違うって言えよ?なぁ?」


俺が語気を強めにして訊くと、マリサムさんはゆっくり振り返った。


「それがどうした?」


「は?」


()が何かおかしいことをしたか?俺はただ君達に、魔生物の討伐依頼をしただけだ。やましいことは一つもしていない。」


「なんだと?」


「そもそものことを言えば、アイツが悪いんだ。」


マリサムさんはルビガロカの死体を指差した。


「アイツが子育てのために番を連れてここに来たのがそもそもの間違い。」


子育て・・・?


「あっ、アンタ!!アイツの家族に一体何しやがった!?!?」


詰問する俺に、マリサムさんは恐ろしいほど落ち着いた口調で語り出した。


「ルビガロカは一夫一妻制でね。雄は一度番になった雌と生涯添い遂げるんだ。美談だとは思わないかね?普段彼らはここより更に険しい山岳地帯に棲んでるが、雌の出産と子どもの世話に合わせてこのような森林地帯まで降りて来るんだ。俺はこの森に降りた奴の番を見つけて・・・狩りで奴が留守にしている隙に番の雌を殺した。こう見えても昔は名を馳せた冒険者だったんでね。雄ならいざ知れず、体格が小さい雌、しかも身重で動きが遅くなっている個体を殺すのは難しくなかった。仕留めはしたが強固な体毛に覆われていて、素材を剥ぎ取ることはできなくてね。」


「じゃあその剣、どうしたんだよ?」


「雌の腹を掻っ捌いて、子宮にいる子どもから作った。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「まだ胚が未成熟だったから剥ぎ取りやすかった。その日以降だ。この森で雄のルビガロカが暴れているというウワサを聞いたのは。そこで君達に奴の討伐依頼をしたってことだ。」


「なんで俺らを、騙した?」


「君達の評判を聞いた時、正直に話したら絶対に引き受けてくれないと思ったからに決まっているだろう?真実を織り交ぜた嘘は強力だ。だから俺は奴の身に起こったことをそのまま自分のことにしたのだ。ちなみに俺は独身だよ?」


俺達の傍まで美玲が歩いてきて、マリサムさんに聞いた。


「ルビガロカは保護種族でしょ?なんで殺したの?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「剣の栄光を取り戻すためだ。」


「剣の栄光?」


「魔科技術が発展してから、剣はどんどん衰退していった。魔科銃などというしみったれた武器紛いの代物が、剣の立場をどんどん奪っていった。刀匠としてこれほどまで嘆かわしいことがあるか!!剣こそが武の真髄!業物の一太刀こそが正義!ルビガロカの素材から造られた剣はこの世に一振りとてない。だから俺はこれを使って、失われた剣の威厳を取り戻すことを決めた!ルビガロカの牙と爪からこしらえた一振りが、再び剣の時代を取り戻すのだ!!」


「だったらなんで私らにアイツを殺すように依頼したの?もう剣はできたじゃん。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「陸上最強の魔生物といっても所詮は赤子。大人の雄からなら、これ以上の一品が造れると思ったからだ。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「なるほどね。」


❝フグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!!!❞


首を串刺しにされたルビガロカが、激昂した眼差しでマリサムさんを睨みつけた。


「死んでいなかったとは。執念深いのか、それともやはり(これ)の力が足りぬのか・・・。まぁ良い。すぐに楽にしてやろう。お前も我が子と同じ、剣の時代を取り戻す糧となるのだ・・・ッッッ!?」


俺は虫の息の雄のトコまで歩いていった。


「なんだ?代わりにトドメを刺すというのか君の相棒は。」


「さぁ?」


話す二人を無視して、俺は雄の前で座った。


「さっきの話の続きなんだけど、依頼するには報酬を用意してもらわなきゃなんだ。普通は10万円か金貨一枚なんだがお前が金なんか持ってるワケ、ないもんな。なんでもいいからさ、俺に何か払ってくんない?」


雄はゆっくりと顔を傾け、俺は目線の先にあるものを見た。


()()?そんなに大切なモンでもないだろ。」


俺の質問に雄は牙を剥いて目の前の仇を睨みつける。


()()()()()ってことか・・・。分かった。受け取ろう。もう一つだけ条件がある。()()()()を見るまで、絶対くたばるな。」


俺は奴の提示した報酬を取りに行った。


俺がへし折った、奴の腕刃・・・。


「何のつもりだ?」


「マリサム=カムオミラン。アンタはオルトロスの定める契約に対して重大な契約違反を犯した。本来なら殺し屋クランの利用を永久停止するところだが、ちょうど新しい依頼が入った。」


「新しい依頼だと?」


俺は落ちてる腕刃を拾い、それをマリサムに向けた。


「ッッッ!!!何のマネだ!?」


「妻子を殺されたルビガロカからの依頼だ。腕刃(報酬)も受け取った。今からお前が、オルトロス(俺達)の新しい標的(えもの)だ。」

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