第54咬―刀語り・参
ルビガロカの抱える怨みと、マリサムさんが俺らに寄越した依頼内容が完全に一致してることに、俺の頭の中は❝?❞でいっぱいになった。
だけどそれはほんの数秒。
考えがまとまってくると、違和感は言葉で表すことのできない不安に変わっていく。
なんなんだ?
この胸ン中の、油みたいにドロドロした感情は・・・。
知りたい。
だけど知ったらいけない気もする・・・。
もどかしい?
腹立たしい?
どっちだ?
❝ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ・・・!!❞
我に返ってルビガロカを見ると、伏せて苦しそうに唸ってる。
「はっ・・・!!これは・・・!!」
雲が晴れて、昨日と同じ血みたいな紅色の満月が浮かんでる。
バキバキと、全身の骨を鳴らしながら、ルビガロカは二本足で立ち上がる。
そして、ついに・・・。
❝ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!❞
真っ赤な月明かりでルビーのような煌めかせ、ルビガロカは直立で月に向かって遠吠えたした。
考え事は後回し。
こっからが本番だ。
刀を鞘に仕舞い、俺は居合の構えを取った。
ルビガロカも、手の甲から腕刃を伸ばし、腕をクロスさせて止まった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
先に仕掛けたのは・・・ルビガロカだった。
図体に似合わない素早い飛び込みで、俺の間合いでクロスさせた腕を開いた。
だけど、俺だって負けてない。
初撃を防ぎ、ルビガロカの顔までジャンプして、右耳を削いだ。
怒り狂ったルビガロカは、今度は回転斬り俺を横にぶつ切りにしようとする。
それも防ぐことはできたが、回転による遠心力は半端じゃなく、衝撃で宙を舞った。
「くっ・・・!!」
ルビガロカが空中の俺をブッ刺そうとした。
「護主命絶流・槍裂き!!」
エンジンカッターみたく宙で縦回転し、俺はルビガロカの腕刃を、生えてる左腕ごと縦に裂いた。
❝グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ?!?!?!❞
手痛い反撃にルビガロカは苦痛に満ちた絶叫を上げる。
スタっと着地する俺を、ルビガロカは縦斬りされた左腕を押さえて睨みつける。
「どうだ?俺が使える奴だって認める気になったか?」
❝フゥー・・・!!フゥー・・・!!フゥー・・・!!❞
変わらず鋭い眼光。
だけど心なしか、ちょっと柔らかくなった気がする。
「頼太。」
今まで観戦してた美玲が不意に話しかける。
「なんだ?」
「殺意が薄まってる。この勝負・・・次で決まるよ?」
「え!?じゃあ・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「最後にイイの、ビシッと決めちゃって。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「オーケー。」
ルビガロカが全身の毛をいっぱいに逆立て、溜めモーションに入った。
特大のをぶつけて、自分の中での確証を得ようってのか。
いいだろう!
こっちも本気で受け止めてやっからよ!!
❝ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!❞
森全体が揺れそうな大咆哮をかまして、ルビガロカは今いた所からパッと消えた。
今までの相手・・・昨夜の俺でも確実にここで死んでるだろう。
全く見えないのだから。
だが・・・今夜は違うぜ。
「❝護主命絶流奥義・神疾け悪厄祓い❞。」
背後に回り込んだルビガロカの右の腕刃を、俺は回って斬り、奴の巨体は吹き飛び地に落ちた。
これが護主命絶流の奥義。
神の如き力と速さで、主に迫る悪き災厄を完膚なきまで叩き伏せる。
使ったのは免許皆伝の際、師匠に実演して以降の2回目だったが、ブランクの割には上手くできた。
もう片方の腕まで使いモンにならないように、きちんと腕刃にだけセーブもできたし。
横に転がるルビガロカに、刀を『カチャン・・・。』と鞘に納めて近づいた。
「もういい加減・・・話に乗る?」
ルビガロカはすっかり殺意を無くして、穏やかな目をしながら座った。
「そのリアクションはイエスってことだな?はぁ~・・・!!こんなに疲れる面談は初めてだぜぇ~・・・!おかげで全身ガッチガチ!!」
とまぁ~茶化すのはこれくらいにして・・・。
「お前の番を殺した人間についてなんだけどさ、そいつって・・・。」
話をした瞬間だった。
ルビガロカの直上から人が飛び降りてきて、剣で深々と首を突き刺した。
「は・・・?」
目の前に起こったことに頭が真っ白になっていると、そいつはルビガロカから剣を抜いて、その身体の上に立った。
「マリサム・・・さん?」
「ありがとうございますオルトロスさん。あなたコイツを弱らせてくれたおかげで難なく仕留めることができました。」
微笑むマリサムさんの手には、ナイフを巨大にしたような、紅色の毛皮をなめした剣が握られていた。




