第53咬―刀語り・弐
ルビガロカは過去に家族を人間の手で殺された。
その時に抱いた人間への憎悪が、奴を攻撃的にさせ、ひいてはマリサムさんの奥さんを殺したことに繋がってしまったのか・・・。
なんとも・・・気分の悪い話だ。
オルトロスは人様の晴らせない怨みを晴らすのが仕事だ。
鎖みたいにジャラジャラした復讐の連鎖に首を突っ込むのは御免だ。
だってそれを、未然に防ぐのも、目的だからな・・・。
人の怨みってのは一度繰り返せば、終わらせるのがすごく大変・・・いやそもそもそんなのできないのかもしれない。
差別、戦争、虐殺、SNS炎上・・・。
どこまでも深くなった怨みの応酬は、もう何が原因か分かんなくなってしまう。
当人たちにとって、もうそんなの、どうでもいいのかもしれない。
そんな、ヘドが出る残酷な世の中に、ちょっとでも風穴をブチ開けるために頑張ってきたんだがな・・・。
どうしたモンか・・・クソ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「なぁ・・・。お前、俺がお前の家族を殺した人間に、代わって仕返ししてやろうか?」
❝グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル・・・。❞
「❝アホなこと言うな❞ってツラしてんな?俺な、中々に腕が立つぜ?なんせそういうので飯食ってんでな。どうだ?話に乗るか?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
❝グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!❞
けたたましい咆哮をして、ルビガロカは突っ込んできた。
❝なら証明してみせろッッッ!!!❞
って言ってんだろうな。
「ああ!!役に立つって教えてやるよッッッ!!!」
10mほど離れたところでブレーキをかけ、ルビガロカは腕刃を振り上げて斬りかかってきた。
俺はそれを弾くと、奴の腹の下に潜り込んだ。
「はぁあああああああああああああああ!!!」
トンネルみたいにくぐり抜けながら、俺は左後ろ足の腕刃を根元からカットした。
❝グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!?グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル・・・!!❞
「どうだ!?昨日とは違ってスムーズに動くだろ!?あん時は不調だったんでな!聞く気になったか?」
❝グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!❞
右前脚を引いてチャージさせると、ベイブレードみたいに回転しながら突進してくるルビガロカ。
「まだ信用ならんってか!?上等だ来い!!」
岩鱗丸を縦に構えると、『ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!』と金属どうしが削り合う轟音が鳴り響いた。
コイツの身体毛皮だろ!?
なんでこんな音すんだ?!?!
正直・・・すごくキツい・・・。
だがギリ踏ん張ってられる・・・。
一方的だが、ここで依頼内容を聞いておくか・・・。
「込み入った・・・!!話で・・・!!ゴメンだが・・・!!誰を殺された・・・!?」
ルビガロカは下がると、俺の背後に回り込んで腕刃を叩き込もうとした。
俺は今度は、刀を横向きにしてガードした。
腕の衝撃が足まで下がって、それにより地面が砕ける。
「親か!?兄弟か!?」
❝ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!❞
「もしくは・・・番の雌か!?」
❝・・・・・・・!!❞
さっきまで俺を圧し潰そうとしたルビガロカの腕が突然フワッと軽くなり、俺は急いで距離を取った。
❝ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン・・・。❞
ルビガロカが悲しい声で吠え、目に薄っすら涙を浮かべているようにも見える。
なるほど。
殺されたのは番の雌・・・つまり奥さんか・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あれ?
ちょっと待って。
ルビガロカは番の嫁を殺されたんだよな?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
マリサムさんが、俺らに寄越した依頼と、全く、同じ・・・?