第52咬―刀語り・壱
その日の夜。
俺と美玲は昨日戦った森に再びやってきた。
「大丈夫?傷まだ治ってないじゃん。」
「骨折はもう治ったからいい。細かい傷は、まだだけどな。」
「そんなんでよく昨日殺されかけた奴に再戦しようなんて思うね。パ~なの?」
「誰がじゃいッッッ!!!そんなことより、解ってるよな?」
「ギリギリまで横槍は入れない・・・でしょ?私も非論理的なゴタゴタに首突っ込むほどアホじゃない。」
「けっ!言ってろ!!」
改めて前を向いた俺の前に広がるのは、漆黒の夜の森。
少し心臓の鼓動が強くなったので、俺は気を落ち着かせるために深呼吸する。
「ふぅ~・・・!!っし!!行くか!!」
◇◇◇
森に分け入った俺達は、昨夜やり合った所を目指した。
思ったより遠くはなく、迷うこともなかった。
ルビガロカの大回転で薙ぎ倒された森はそのままで、今も粉々になった木の破片や、割れた岩の残骸がそこかしこに転がっており、荒れ果てている。
「で?どうすんの?」
俺はタルタロスのサービスでレンタルした岩鱗丸を鞘から抜き、峰で近くにあった岩を殴った。
❝カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンンンンンンンン!!!!❞っという軽く鋭い音が夜の森にこだまする。
「昨日の続きをしに来たッッッ!!!近くにいるなら出てこいッッッ!!!」
俺の頬を、森から吹いた冷たい風が撫でる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「動物がそんな決闘みたいマネするはずな・・・ッッッ!!」
呆れる美玲の目がカッと開いた。
「来た・・・な。」
樹々をバキバキと傾かせる音を響かせながら、ルビガロカは森の奥からぬぅっと現れた。
❝フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!❞
荒々しい鼻息・・・。
この時点で結構気が立ってるな。
「そんなに興奮すんな!今日は殺しにきたんじゃないよ。ちょっとおしゃべりしにきただけだ。」
❝グルルルルルルルルルルルル・・・。❞
「見たところお前さん、中々にワケありみたいだな。その腹に抱えてるモン、ちょっと吐き出してはくれねぇか?こう見えても俺、意外と悩み相談上手いんだぜ?」
❝グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!❞
ふざけんな。
あるいはできるものならやってみろか。
ルビガロカは前足と後ろ足の腕刃を❝ジャキ!!❞と立てて睨みつける。
どっちにせよ、「イエス」ってことなんだろう・・・。
「乗り気になったようでぇ!?じゃあ始めようか!!剣客どうしの、刀での語り合いをッッッ!!!」
俺とルビガロカ。
両者どうじに斬りかかった。
「ふっ・・・!!!」
❝ガアッ・・・!!!❞
岩鱗丸と向こうの腕刃が激しく打ち合う。
昨日と同じく・・・すげぇ一撃!
足の傷口がブチブチ開いてきた。
めっちゃ痛ぇけど、その分コイツの怨みが相当なモンだってことがひしひし伝わってくる。
「中々いい、切り出しだ・・・!!いいだろう!!そっちのペースに付き合ってやるよ!!」
俺は後ろに下がりつつ、ルビガロカの猛攻をいなす。
『ガン・・・!!!ガン・・・!!』という激しい衝撃音がし、鍔迫り合いをするごとに火花が散った。
さすがは硬度に特化した刀。
これだけ打ち合いしてんのに刃こぼれ一つ出やしてない。
おまけに何と言っても・・・軽い。
まるで身体の一部にでもなったみたいに軽やかに振るうことができる。
レンタル品だから不安だったが、俺は確かに、岩鱗丸の忠誠心を得ることができてる。
やはりコイツは・・・オルトロスの依頼人の性質を持ってるってことか。
それが分かったのなら、次のアクションを起こしてみるか。
「なぁお前!!一体何にそんなに腹立ってるんだ!?」
❝ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!❞
「棲み処を取られたのか!?どっかの誰か酷く負けたのかぁ!?それとも・・・」
❝グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!❞
「---------!?」
❝グゥゥゥゥゥゥガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!❞
アッパーカットされたと思ったら、その流れで太く逆立った尾で殴られて俺は地面に叩きつけられた。
「痛っつう・・・。」
刀で防いでなかったら、確実に今ので意識ぶっ飛んでたな・・・。
❝グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!❞
さっき以上にルビガロカが俺を睨みつけて唸ってくる。
アッパーの前の一言が、奴の地雷だったみたいだな。
しっかし、こっちの言葉が分かるとはな・・・。
さすがは異世界の動物だ。
さっき俺が言ったことで、コイツの抱え込んでるものが段々掴めてきた。
「お前・・・家族を人間に殺されたんだな?」