第51咬―同怨眼
「入るよぉ~。」
お昼前頃になって美玲とヒナが寝室に戻ってきた。
「ぱぱ~!」
ヒナが自分の頭をグリグリ擦り付けてくる。
天日干しした小麦のような匂いがして、なんだかリラックスする。
「お昼何する?いい時間でしょ?」
「わざわざ聞きに?珍しく気が利くねぃ~。」
ちょけてみたが美玲は一言も返さない。
こういう時は辛辣ながらもなんかリプがくるはずだ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「なんか、聞きたい?」
「分かる?」
「何年の付き合いだと思ってんだよ?俺達は見えない糸で繋がってんだよ!」
「納豆みたいに粘っこいね。」
「ぐっ、ごほん!一気に淫らな表現になったのは心外だが、それはさておき・・・なに?」
「さっきエキドナから聞いた。武器の忠誠心。」
「そっか・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「頼太・・・あのオオカミに何を感じた?」
「なっ・・・!きゅっ、急に何だよ?」
「エキドナ言ってた。頼太の木刀が折れたのは、頼太が心の奥でアイツを殺したくないって思ったからだって。私はそういう、心情的なことがイマイチ分からない。アイツと戦って、なんか思うことがあるんだったら知りたい。」
心配3、探求7って言ったところか。
美玲はベッドに座って顔をググっと近づけてきた。
「はっ、話すからちょっと離れろ!!キス5秒前になってるから!!」
「頼太にそんな感情はない。」
スンっとロボみたいに無機質に即答する美玲に、なんかイラっとした。
まぁいいや。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「アイツの眼がな、まんまだったんだよ。俺らの依頼人に・・・。」
「依頼人?」
「腹ン中にドス黒い怨みを持ってて、自分の手でケリつけたいけどそれができなくて、怒りと憎しみで頭おかしくなりそうな、俺達が商売相手にしてる、連中の眼にさ・・・。」
ルビガロカと初めてやり合った時から薄々勘付いてた。
アイツは俺達をエサだと思って襲ったんじゃない。
殺したくて、殺したくて堪らないから、殺そうとしたんだって・・・。
俺の木刀は、そんな俺の心をよく読み取ってた。
だけど俺はそれを認めたくなくて、無理やり従わせようとした。
だからアイツは、俺に愛想を尽かして、折れるって選択肢を取ったんだろうな。
いやもしかしたら、俺自身に意に沿わない殺しさせたくなかったのか・・・。
それは甘えか・・・。
「異世界の存在だとしてもアイツは獣。そんな感情あるはずないよ。」
「お前ならそう言うと思った。だけどな、あれはアイツは異世界の動物だぜ?人間と同じ感情があってもおかしくないんじゃないかな?」
「もしかして今回の依頼、なんか裏があるって?」
「そこまでは分かんない。だけど一旦アイツの眼を見ちまったら、どうしても頭から離れないんだよ。アイツには・・・放っておけない怨みがある。」
「じゃあ、頼太はこれからどうするの?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「もう一回アイツと・・・ルビガロカと正面からぶつかる、今度は殺すためじゃなくって、アイツの腹ン中のモノと向き合うために。」
美玲は呆れたようにため息を吐いた後にこう言った。
「ヤバくなるまで助けないからね。」
ヤバくなるまで・・・ね。
「やっぱ、持つべきものは相棒だよ。」
俺はベッドから起き上がった。
「昼はやっぱ適当に済ましといて。俺は用事があるから。」
「用事?」
「奴と真正面からぶつかるために、先立つ物がいる。」
「それは何?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「刀だ。頑丈な刀だ。」
俺はそう言い残し、日本の恵福の会フロントに向かった。
「頼太様。お怪我の具合は?」
「だいぶ動けるようになった。それでさへびまるちゃん、道具の貸出サービスを受けたいんだけど。」
「分かりました。どうぞこちらへ。」
地下に通され、指紋及び網膜スキャンでロックされた一室に俺達は入った。
中には銃やナイフなど武器がズラリ。
「日本刀はこちらになります。どれになさいますか?」
「切れ味よりも硬さ重視なのってない?」
「でしたら、こちらがおススメかと。」
壁に掛かった刀の中からへびまるちゃんが一振り俺に渡してきた。
「これは・・・。」
刃文がまるでカメの甲羅みたいだ・・・。
「❝岩鱗丸❞。鍔迫り合いをした幾本もの刀を逆に叩き割り、刃こぼれ一つしなかったという一品です。」
「ほぇ~・・・!!すごいねぇ~。うん!これにする。」
「貸し出し料57万円です。破損や紛失等があれば、別途ご請求します。」
マジっ!?
「またぁ~・・・口座から引き落としといてっ!」
「かしこまりました。」
とにかくこれで準備は整った。
さぁルビガロカ。
互いに剣で、腹割って話し合おう。
同じ、剣豪どうし。




