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第5咬―悔罪

フロントの右奥に入ると、ロビーに来るまでに見かけたのと同じようなドアが一つあった。


だけど一点だけ違う。


ここのカギは電子ロックじゃない。


小さな長方形の穴が空いてる。


そう。


まるで・・・。


頼太(らいた)。」


「ああ美玲(みれい)。俺も同じこと考えてたよ。」


俺はへびまるちゃんから渡されたコインの内、青色のを入れた。


すると『ガチャン。』と音がして、カギが開いた。


「どれがどれくらい価値のあるか分かんなかったからダメもとで一番安価そうな青を入れたけど、開いた・・・。」


「色によって価値が違うというのは合ってる。だけど問題は価値じゃない。へびまるちゃん言ってたでしょ?そのコインはこっちの世界で()()()()()()()()()()()()()()。それを使ってここに入るってこと自体が、()()()()()()()()()()()()()()。って証拠。」


「なるほど。」


相変わらず冴えてる。


半分寝てるとは思えないな。


「何その珍獣でも見るかのような目?」


「べ~つに。さてそれじゃあ・・・。」


商談といきますか。


部屋に入った俺は「ヒュ~・・・。」と口笛を吹いた。


これまた古代ギリシャ風の、地下を掘って作られた神殿みたいな空間だった。


天井からは水滴が落ちてきて、衰退しているように感じられるけど、どこか威厳が感じられる。


「怪物のねぐらにはもってこいの場所だな。」


「アレ。」


美玲が指差す方を見ると、神殿の中央に人がいた。


年齢は40代ほどで、男性。


服装は18世紀ヨーロッパ風で、そこに近未来的意匠が追加されたようなのを着ていた。


「あの人が・・・依頼人か。」


「頼太。」


「分かってる。窓口は俺だ。ちょっと話してくる。」


俺は中央に続く階段を、ゆっくり下った。


「依頼人だな?」


「ひっ!?あっ、ああっ?」


俺の顔を見るや否や、男は素っ頓狂な声を出して、目をひん剥いた。


「おっ、オルトロス・・・?」


「そうだ。2人組だが窓口は俺でね。一人だったから戸惑ったか?」


「いや違っ・・・!!その・・・俺の息子と、年があんま変わらなくて・・・。」


「思ってたよりでガキで心配になるのは仕方ない。だが腕は保障する。」


「はぁ・・・。」


「とりあえず、話・・・聞かせてくれ。」





◇◇◇





彼・・・つまり今回の依頼人の名前はダグラダ=ホーパーズ


この世界の貨幣システムである『マプトン決済』。


現実世界で言えば電子マネーに似たシステムを取り扱う大手企業で、システム管理をするのが彼の職業だ。


妻は子どもの出産の際に先立たれ、彼女が遺した最後の宝物である一人息子を男手一つで大学まで進学させた、まさに父の鑑のような人物だ。


「息子の就職先が決まって、大学卒業から入社までブランク期間があるから時間を有効活用したいと言っておりました。その後、嬉しそうに言ってきたんです。❝割のいい短期労働を見つけたから小遣い稼ぎしてくる。❞って。それからです。息子の様子がおかしくなっていったのは。仕事に行くのは決まって夜。しかも何やら・・・疲弊しているようで、怯えているようにも見える。それからしばらくして、こんなことを言ってきたんです。私の勤務先のシステムコアへのアクセス権限を貸してほしいって。もちろん断りました。すると息子は、なんだか寂しそうで、どこかホッとした表情を見せて話を終わらせました。その2日後です・・・。息子の、遺体が、近くの川で発見されたのは・・・。」


ダグラダさんは、涙で言葉を詰まらせた。


「私は真っ先に・・・息子の応募した短期労働が怪しいと思い・・・ログを調べました。だけど全て削除・・・されていて・・・警察も❝追跡の手段がほとんどない。❞と、捜査にはかなり・・・消極的でした・・・。私のせいだ・・・。私がもっと・・・あの子の異変に目を向けていれば・・・!!私は・・・父親・・・失格です・・・。」


ダグラダさんは顔を覆っておいおい泣き出した。


自分のせいで息子が死んだと、彼は心から自分を責めているのだろう。


「息子が死んで泣くような男が父親失格なワケがねぇよ。」


「え・・・?」


「アンタはカミさんを失った後、息子さんを大人になるまで必死に育ててきたんだろ?感謝こそすれど恨んだりは絶対にしないよ。俺が息子さんだったら、親父のこんな姿、辛すぎてみてらんない。」


「ありがとう・・・ございます・・・。」


自分ではどうやっても晴らせない怨み辛みを抱えてる奴を励ます言葉は。長いことやってるけど、未だに分からない。


だから、()()()()()()()()()()()()()()()()だって考える言葉をかけてやるようにしてる。


なんにも言わないよりはマシだからな。


「それで息子は・・・あの子の身に一体何があったのですか!?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「闇バイトだな・・・。」


「え・・・?」


「あっ、いや。俺の世界で似たような犯罪が横行しててよ。ひとまずログデータをここのフロントに渡してくれ。あの子なら絶対にそいつ等のこと、見つけ出してくれるから。それで・・・。」


俺はダグラダさんに、最後の質問をした。


「本当にいいのか?アンタ・・・俺達に頼むってことは人殺しの片棒担ぐことになるぜ?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「覚悟はとっくに出来てます。息子をあんな目に遭わせた連中に、私に代わって報いを受けさせて下さいッッッ!!!」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「決まりだ。それじゃあ、まず報酬を受け取りたいんだが・・・。」


「やはり、お高いのでしょうか?」


「俺もこっちに来たばかりだし、コインのレートについてよく分からなくて・・・お?」


へびまるちゃんから渡されたケースを開けてみると、小さなメモが入ってた。


「なるほど・・・。報酬は1アウル。金貨一枚でいい。」


「そっ、それだけでいいのですか?私の月給の5分の1ですよ?」


「俺達は高校生だ。報酬は10万・・・いや。こっちの世界じゃ1金貨(アウル)か。それが分相応の大金だと思ってる。身の丈にあった報酬を受け取るのがポリシーでね。」


「・・・・・・・。分かりました。」


ダグラダさんは、テーブルの上に金貨を置くと、俺はそれを受け取った。


「成立だ。じゃあ改めてこの仕事、俺達オルトロスが請け負った。アンタの晴らせぬ怨み・・・。俺達が喰い潰してくるからよ。」


ダグラダさんにコインを見せつけて、俺は堂々と断言した。

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