第48咬―違和感
爪を地面に立て、森中を震わすほどの重低音な唸り声を上げながら、ルビガロカは俺達を睨みつける。
「美玲・・・コイツ・・・。」
「うん。すっごい眼光。」
さっきまでやり合ったジャッカル達の比じゃない。
とてつもない威圧感だ・・・。
ちょっと、マズいな・・・。
身体、プルプルしてきちまった・・・へへっ・・・。
「とうっ!!」
ッッッ?!?!
珍しく身体がガチゴチになってしまってる俺とは正反対に、美玲はルビガロカの横っ面に飛び蹴りをブチ込んだ。
ルビガロカの顔が少し傾いたが、体制を崩すことなく、牙をより剥き出しにして美玲を睨みつける。
「いいのが入ったと思ったんだけd・・・うおっ!?」
ルビガロカの大顎が『ガチン!!』と美玲に食らい付こうとしたが、寸でのところでかわし、組んだ両手をルビガロカの頭上に思いっきり振り下ろした。
「かった・・・。」
ものすごい石頭のせいで脳天をカチ割ることは出来なかったが、衝撃でルビガロカは頭だけ伏せた体勢になった。
その光景にハッとした俺は、これをチャンスと見て、木刀を構えてルビガロカに斬りかかった。
「はああああああああああああああああああああああああああああああ!!!ッッッ!!!なっ・・・?!?!」
首を刎ねようとした俺の刃が、ルビガロカの前足の腕刃に防がれた。
「コイツ・・・!!その姿勢で防ぐなんてマジかよ・・・ッッッ!!!」
もう片腕の腕刃が俺に振り下ろされ、俺はガードしてる方を急いで弾いて、木刀を横に構えてそれを防いだ。
ッッッ!!!
おっ、重ッッッ・・・!!!
足が地面にめり込む・・・!!!
「ふんぬぅ・・・!!きっつ・・・ぶほっ?!?!」
ガラ空きになった脇腹に前足からの強烈な一撃を食らって、俺は吹っ飛んで木に激突した。
「頼太ッッッ!!!ちょっ・・・うわっ?!?!」
暴れるルビガロカに振り落とされた美玲に、鋭い爪を伸ばしたルビガロカの拳が振り下ろされそうになる。
だけどあと一歩のトコで俺が木刀で防いだ。
『グルルルルルルルルルル・・・!』
「へっ!!❝どういうことだ?❞ってツラしてんな!!生憎転移者は並存世界じゃ頑丈になるようにバフかけられてんでなぁ!!!」
ルビガロカの拳を弾き返した俺は、返す刀で奴の腕を斬り飛ばそうとした。
ところが薙ぎの一太刀は奴の腕に少しの刀傷を付けるに留まった。
「冗談だろッッッ?!?!かなり本気だったぞ今のッッッ!!!」
「足りなかったら反対側にも一発入れればいい。」
美玲が刀傷の反対側に溜めストレートを入れたが、傷から骨が出ることはなく、『ブッ・・・!』と少量の血が噴き出る程度だった。
「さっきの頭蓋骨といい・・・。どんなカルシウム取ったら骨そんなんなるん?」
一旦距離を取った俺達を前にして、ルビガロカは全身、特にたてがみをボワっと逆立てた。
そして身を引いて溜めモーションに入ったと思ったら、4本の腕刃を『ジャキン!!』と伸ばして連続ひねりジャンプをした。
「ヤベっ・・・!!!」
「マッ?」
広範囲に及ぶ斬撃が飛んできて、俺達は必死に逃げ回った。
「いっ、今のは何だってんだ・・・よぉ?!?!」
辺りを見回した俺は愕然とした。
さっきのルビガロカの大技によって、俺達を中心に半径100mほどが木の破片が散らばる更地になってしまっていた。
「首飛ぶかと思っ・・・Ow・・・。」
バラバラに砕けた木の瓦礫から這い出た美玲も、変わり果てた光景に言葉を失った。
固まってる俺達に向かって、ルビガロカは『グオオッッッ!!!』と大きく吠えた。
「どうやら私らをただのエサと思わなくなったみたい。本気出させちゃったね?」
「え?あっ、ああ・・・。」
「どったの?ビビった?」
「そっ、そんなんじゃない!!」
「ふぅん。ならいいけど。」
今さっきの美玲の言ったことが引っかかる。
何故か俺には、そもそもコイツが最初から俺らを殺そうとしたように思える。
食うためじゃなく、ただ殺すために。
つうか・・・コイツを始めてみた時から、俺はコイツに違和感を感じずにはいられなかった。
口で表すことはできない。
だけどそれでいて、なんか・・・見覚えがあるような・・・。
その時になって、俺は握ってる木刀が段々重くなってるような気がした。