第47咬―紅月狼
突然背筋に鳥肌が立って、思わず立ち上がった。
「ちょっとこの感じ・・・!!美玲!!」
「何かくるねぇ。」
呑気な態度でパチパチ音が鳴ってる焚火に棒を突っ込んで炭を均す美玲。
「悠長に構えてる場合かッッッ!!!」
「よい、しょ!」
面倒くさそうに岩から立つと、美玲はバッグのチャックを開けて中の木刀を投げてよこした。
「始めようか。紅オオカミ狩り。」
美玲から木刀を受け取った直後のこと、『ドドドドドド・・・!!』という音とともに、俺達に近づいてくる気配がどんどん強くなってくる。
そしてついに・・・。
『キャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャッッッ!!!』
キンキン響く笑い声のような鳴き声を発しながら、全身体毛が無く代わりにヘビのような鱗を持つキツネみたいな動物が8頭出てきた。
「なっ、何だコイツ等・・・?!?!」
「これがオオカミ?どうみてもジャッカルじゃん。見掛け倒しもいいトコだよ。」
「みっ、見掛け倒しって・・・!!」
コイツ等明らかに俺達の世界のホッキョクグマ並の大きさなんですけど?!?!
おまけに上下の前歯がチョウチンアンコウみたいなっがいんだけど!!
どうみても俺らの知ってるジャッカルじゃないんじゃんッッッ!!!
「私らの周りをグルグル囲って・・・。アタックの機会を伺ってんだね。」
いつまでのほほんと構えてんだよ!?
『クケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケッッッ!!!』
グルグル周ってた内の一頭が、掴むのにピッタリな4本の指が生えた手を構えて、美玲に飛び掛かってきた。
「ヤバっ・・・!!!」
慌てて美玲を庇おうとしたが、美玲はストレートを突き出し、襲ってきたジャッカルのバケモンの心臓をブチ抜いた。
「あれどしたん?空いてんじゃない?お腹。」
だらんと垂れる仲間の亡骸を腕一本で突きあげて、美玲は群れに見せつける。
予期せぬ事態にもはや獲物の品定めをしてる場合じゃないと察した群れが一斉に美玲に襲い掛かった。
美玲は倒したジャッカルの胸からズボッと腕を抜くと、そいつの足を持って振り回しだした。
「軽いな・・・。いいね。」
鞭みたいにブンブンとドデカイジャッカルの死体を振り回して、美玲は襲い来る群れをグチャグチャにしていった。
ウソやろアイツ・・・。
「あっ。」
ブン回され過ぎて原型がほぼ無くなった死体の足が千切れてすっぽ抜けたように美玲の手から飛んでった。
これを好機と見たジャッカル達は再度体制を立てなおして美玲にアタックを仕掛ける。
「シュート!」
そしたら美玲は、なんとその辺にゴロゴロある岩をボールみたいに蹴った。
顔面にそれをもろに食らって、ジャッカルは首から下がめり込んで地面に倒れ込んだ。
「ゴ~ル♪」
何が「ゴ~ル♪」じゃいッッッ!!!
人間の土俵で戦えよッッッ!!!
「あっそれ。あっそれ。」
これに味を占めた美玲はジャッカル達に岩をどんどん蹴っ飛ばした。
「頼太~。今夜は❝デカジャッカルのトマトシチュー❞にしようか~。」
獲物を見つけたはずが逆にメシにされるなんて・・・。
コイツ等にはつくづく同情するよ・・・。
ってかコレ俺が捌くの?!?!
だってコイツ料理できんしッッッ!!!
『キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ・・・!!!』
美玲のバケモンとしか言い様のない暴れっぷりで、仲間の半分を失ったジャッカル達が、唸りながらもすっかり及び腰になった。
『ギッ・・・?!?!』
ん?
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!』
んんっ!?
急に悲鳴みたいな声を上げたと思ったら、ジャッカル達は一目散に森の奥に逃げだした。
「どっ、どうしたんだ!?」
「さぁ?」
さっきの騒ぎが嘘のように辺りを静寂が包む。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ズン・・・ズン・・・ズン・・・ズン・・・!ズン・・・!ズン・・・!!
ジャッカルの逃げた反対方向。
ちょうど俺達の正面から巨大な足音が聞こえ、徐々にそれは大きくなっていく。
そしてついに、その主が、俺達の前に姿を現した。
「なっ・・・!!え・・・ええっ・・・?!?!」
俺達の前に姿を現したのは、体高5m以上、全長15m以上くらいありそうな巨躯。
5本指に、4本の足のかかと全てからギザギザの刃が付いた湾曲した爪。
首から生えた体毛がライオンのたてがみみたいに長い、全身紅色のオオカミだった。
「こっ、コイツぁ・・・!!」
「来たね?本命。」
コイツがこの世界の陸上最強の魔生物。
紅月狼・ルビガロカ。
今回のオルトロスの、標的だ。