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第46咬―野生勘

「どうもすいませ~ん。これここまでの車だ・・・ぬっ・・・?!?!」


出したコインをひったくると、()()のドライバーは車を急発進して元来た道を戻っていった。


「態度冷たいね。」


「仕方ねぇさ。ただでさえ陸上最強と名高い魔生物が縄張りにしてる森まで連れてってくれって頼んだんだ。しかもこんな真夜中に。」


外はすっかり夜。


目を凝らすと雲が結構かかってて、その隙間から星がチラリと見える。


「じゃあ行くか。」


持ってきた荷物をしょって、俺と美玲は行き止まりの更に先、鬱蒼とした藪の中を入っていった。


「よしょ・・・!!よしょ・・・!!ちょっ、ちょっとストップ!!」


中々進まない俺とは正反対に、美玲のヤツはスイスイ藪の中を先行していた。


「なに?」


「めっ、めっちゃ歩きにくい!!藪チクチクするし、地面デコボコしてるし!!」


「情けない。」


「逆になんでお前はそんなホイホイん歩けんの!?」


「小さい頃から山籠りしてるから。」


あっさり答えやがったよ。


「でもここ異世界の森だぜ!?何があるか分かんねぇよ!?」


「勘は働かす。それでどこに何があるか立体的に分かる。」


ホントかよぉ~?!?!


「・・・・・・・。」


「きゅ、急に黙ってどうした?」


「あっち。」


美玲はちょっと右にそれたから、それに付いて行くと、なんと藪を抜けて大きめの岩がゴロゴロ落ちた林に出た。


見ると綺麗な水が流れる小さな川もある。


「ここでちょっと休も。」


「うっ、うん・・・。」


川のすぐ近くにちょうどいい岩があったから、俺達はそこに腰かけた。


「すっ、すごいなお前・・・。」


「なにが?」


「だって分かってたんだろ!?ここが開けてて、近くに川もあるって!!」


「それが?」


「どうやってそんなのが分かんの!?」


「水流の音、苔の匂い、固まって吹く風・・・。そんなのを五感全部使って探し当てた。それだけ。」


「いやもうそれ感覚が原始に還ってるじゃん!!どうやったら身に着くん?!?!」


「そうだね・・・。」


美玲は上を向いて記憶を辿り出した。


「13の時だったかな。ロッキー山脈で一月くらい腰身の一枚で過ごしたのが大きかったかも。」


おいすげぇ~エピソード出て来たぞ・・・。


「食べ物を探すのも、水を手に入れるにも、全部自分の感覚だけが頼り。もちろん、危険を回避するのにも・・・ね。」


「危険?」


「獣の臭いとか傾いた木の軋み、崖の下の風の音・・・。ほんのちょっとの気の緩みが死に直結するようなポイントが、自然の中には溢れてんの。そうすると、人間ってのは不思議でさ。生きるのに必要な感覚がどんどん敏感になってくんの。そういう激ヤバな経験を数回繰り返せば、もう身体に染み付いて離れない。嫌でも自分の物になる。」


「なぁ?お前なんでそんなことしようと思ったの?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「一度グリズリーと戦ってみたくて。運のいいことに4m越えの超大物に出くわせた。あの時のクマ肉の炭火焼きはガチで最高だった。」


うん!


コイツやっぱバケモン!!


「火焚くよ。」


「は?」


「動物って火を怖がるっていうけど、もちろん迷信だから。むしろ鼻が利く捕食者にとっては❝ここにご飯いるよ~。❞って堂々と言いふらしてるようなもんなんだよ。」


「そっ、そうなんだ・・・。」


「でもそれでお目当てのがノコノコやってくるかは・・・運だね。」


不敵に笑う美玲にちょっとドキっとしたけど、とりあえず俺達は火を起こすことにした。


これで探す手間が省けるといいのだが・・・。





◇◇◇





「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル・・・。」


鼻を通る木が燃える臭いに、その獣は牙を剥いて唸った。


❝今晩の獲物がやってきた。❞と言わんばかりに。


そして立ち上がり、鮮血の如き紅色の毛並みをなびかせ、臭いのする方向へと歩き出した。

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