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第45咬―同類項

「あれは先々週のことでした。わたくしと妻はここから車で一日ほどかかる山脈に、包丁の柄に使う木材を探しにいってました。ちょうどそこが、上質なモノの産地で有名でしたから。当初は夕方で切り上げる予定でしたが、つい熱が、入り過ぎてしまったんでしょうね・・・。気付いた時には陽がほぼ落ち切っていました。幸いにも、一晩過ごせるくらいの食料や備品を、万が一のために持ってきていたのでそれを使って夜営することになったんです。そしていざ、キャンプを張ろうとした際に・・・()()は・・・現れたんです・・・!!」


話すマリサムさんの声に段々熱が入ってきた。


怒りの熱だ。


「血のような紅色の毛皮に覆われた巨狼でした。わたくし達が焚いた火を全く恐れることなく、奴は我々夫婦に襲い掛かってきたんです。妻が突き飛ばしたおかげで、わたくしは助かりましたが・・・妻は・・・!!」


歯を食いしばって涙を流すマリサムさんを、俺は見てられなくなってきた。


「こっちを振り向いた奴の鋭い眼光・・・。口に咥えられた妻の亡骸と、それをまるでリスでも噛み砕くようにバリバリと、牙を突き立てる音・・・。わたくしの目には・・・あの夜の光景が・・・未だに焼き付いて離れません・・・!!本当ならこの手で・・・!!アイツを殺してやりたい・・・!!!」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「あまり興奮されない方がいいと・・・。」


「すっ、すいません・・・。お見苦しい姿を晒してしまって・・・。」


「それで、その後は?」


美玲が話に乗っかってきた。


「はい・・・。後で分かったんですがその一帯に、親離れした若い雄が住み着いて縄張りにしていたらしく。」


「どこも討伐依頼を受けてくれなかったのは何故なんですか?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


()()()()()()()()()()からなんです。」


「え?」


「さっきもいったように、ルビガロカは陸に住む魔生物の中で最強と謡われている種族です。名声を手にするために、何人も挑みましたが、誰もが逆に奴のエサに・・・。」


「確かに、怖がるのは当然ですね。」


「それだけじゃないんです。」


「何か他にも理由が?」


「保護・・・種族なんです・・・。」


「保護?」


「奴等はこの世界の食物連鎖の頂点に君臨しています。それ故に、個体数が元から少ないんです。このまま魔科の発展が進めば、種の存続に影響を及ぼすおそれがある・・・。だから街が襲われそうになっているとかの有事でない限り、狩猟が認められていないんです。」


ホッキョクグマやベンガルトラと同じカテゴリーってことか・・・。


マリサムさんはテーブルから離れると、俺達に向かって土下座した。


「誰も倒せないから・・・保護種族だからって理由じゃ・・・妻を殺されたわたくしの怨みは・・・到底消すことなんかできませんッッッ!!!どうか妻を殺したあの雄・・・!!あの雄だけでも・・・!!殺してくれませんでしょうかッッッ?!?!」


美玲の方を見ると、特に何もリアクションは起こさない。


これは・・・❝ご自由にどうぞ。❞っていうサインだ。


俺もテーブルから立って、マリサムさんと同じ目線になるように座り込んだ。


「その依頼・・・引き受けましょう。」


「ほっ、本当ですか?!?!」


「差し当って、依頼金として1金貨(アウル)もらいます。お持ちでないなら、同額分の金貨を。」


マリサムさんはポケットをまさぐって、ちょっと汚れた金貨を一枚出してきた。


俺はそんな彼の手を、強く握った。


「奥さんの無念とあなたの怨み、この殺し屋オルトロスが責任を持って晴らします。」


「あっ・・・!!ありがとうございますッッッ!!!ありがとうございますッッッ!!!」


泣きながら感謝を述べるマリサムさんから、俺はそっと金貨を受け取った。


「猛獣狩りは久しぶり。」


「腕は落ちてないか?」


「冗談。」


「なら安心だな。」


「だけど今回は鍛練じゃなくて仕事。浮かれてちゃダメ。」


「だな。()()()()()()()()()()()なんて、いかにもオルトロス(俺ら)が殺るべき獲物だ。だったらトレーニングとか娯楽気分じゃなく、仕事として、淡々と、真面目にやろう。」

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