第44咬―鍛冶師
例によって、ミーティングルームのドアに開いた穴に、この世界の裏社会で流通してるコインを入れる。
その額はどうでもいい。
とにかくこっち側の人間ということを証明するのが、この行為の目的だ。
ガチャンとカギが開き、俺と美玲は入室した。
中央に置かれた丸テーブルには、すでに今回の仕事の依頼人が座って待っていた。
絵に描いたような紳士ヒゲを上唇に生やした男性。
年齢は50代前半といったところか?
大方どこかの貴族だろう。
魔生物討伐を依頼してくるなんて、俺達を冒険者と勘違いしてるのか?
でもこの部屋に入るにはコインが必要だ。
俺達がどういった連中か分かっての行動なのは確か・・・。
だったら何の意図がある?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
本人から聞くのが手っ取り早くて、確実だろう・・・。
「どうもこんにちは。ご依頼人で間違いないですか?」
「はっ、はい・・・!」
ん?
外面の割には随分物腰柔らかだな。
「わたくし、ロイヤードシティで鍛冶職人をやっております、マリサム=カムオミランと申します。」
「鍛冶職人・・・ですか。ってことは剣を鍛えるってことですか?知っての通り俺ら別世界からやってきたんで、そういうに結構そそられます。」
「とんでもない!今や主要武器は全部魔科銃になってますから刀剣類の需要はとても・・・。わたくしが造るのはせいぜい包丁や金づち等の日用品でして・・・。」
「はぁ・・・。そうなんですか。」
この世界じゃそういうのはもう廃れた技術なのか。
なんかちょっと残念だな・・・。
「関係ない話はそれくらい。」
美玲がピシャっと話題を断ち切った。
「本題だけど、頼むところ間違えてない?」
美玲の指摘に、マリサムさんは返す言葉が見つからないといった表情を見せた。
ストレート過ぎるキツい意見だが、それ自体はごもっともだ。
「たっ、確かに、そうですね~・・・。マリサムさん。知ってるかと思いますけど、俺達はあくまでも人間を殺すのが仕事なんです。魔生物・・・でしたっけ?この世界の動物。それは俺達の専門外です。ご依頼は冒険者や、その辺りの専門家にするのが無難だと思いますよ?せっかく舞い込んだ仕事を蹴るようなマネするのはなんですけど・・・。」
こちら側に首を突っ込むのは、真っ当な人だったら控えるべきだ。
でないと見たくないものを見るハメになるし、場合によれば抜け出せなくケースだってある。
この人がここで引き下がってくれればいいか・・・。
「お二人の言い分はご理解できます。魔生物の討伐を、殺し屋にお願いするなんて些かおかしいですよね。ですが・・・。」
「はい?」
「どの冒険者も、どの狩猟社も、わたくしの依頼を引き受けてはくれませんでした・・・。もう頼れるのは異世界人で、その中でも指折りの実力者であるあなた方、オルトロスしかいないんです・・・!」
少し俯きながらマリサムさんは声を絞り出した。
この悔しさ・・・。
よっぽど多くのところで門前払い食らったんだろう。
でもすがるところがオルトロスしかいないって一体どんなヤツで、そいつと一体何があったんだ?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あなたが怨みを持ってるその魔生物のこと、教えてくれませんか?」
「頼太。」
「事情だけでも聞いてもいいだろ?」
「もしそれでご納得してくれたら、わたくしの依頼・・・引き受けてくれますか?」
「それは話次第です。」
「・・・・・・・。分かりました。」
マリサムさんは唾をゴクッと飲んで、意を決した顔を見せた。
「わたくしが怨みを持っている魔生物は・・・この世界の陸上魔生物最強と評される、❝紅月狼・ルビガロカ❞です。わたくしはアイツに・・・妻を・・・殺されました。」




