第42咬―朝散歩
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ぐへぇ・・・?!?!」
脇腹にドンっと重たいものが落っこってきてその衝撃で目が覚める。
「ぬああ・・・らに・・・?」
「ぱぱ!!おっき!!おっき!!」
ビー玉みたいな目をキラキラさせて、ヒナが俺の身を手でゆさゆさする。
「ああヒナぁ・・・。今何時・・・?」
って、朝7時。
子どもってこんな早起きなのぉ・・・?
「もうちょっと寝かせて・・・。」
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
ヒナは俺のパジャマの袖を噛んで引っ張って強引に起こしにかかった。
「わっ、分かった分かった・・・!!今起きるって。って美玲は?」
見ると横で寝てた美玲が、ベッドの端スレスレのところでイビキかいてた。
コイツ・・・ヒナののしかかり寝ながら避けやがった・・・!
「おい美玲起きろ!朝だぞ!」
「ぬ゛ぅ~・・・!!ぬ゛ぅ~・・・!!」
「ウシかぁテメェはぁ?!?!」
仰向けで寝てる美玲のツラに、俺は思いっきり枕を振り下ろした。
◇◇◇
「さんぽ!!さんぽ!!」
まだ目ぇ半開き。
美玲に至っては九分九厘寝てて、首から下の意識が全く別物じゃないかってくらい思うくらいの俺達の先を、ヒナは夜が明けたばかりのオレンジ色に光る公園の遊歩道をテケテケ歩いてる。
時折止まって花の匂いを嗅いだり、道を横切るアリに夢中になったり・・・。
それがワンちゃんのようで、人間の子どものようで・・・。
とにかく、ほんわかする。
「ヒナ、おっきくなったね。」
「なんだよ?起きてたのか?」
「寝たまま歩ける人、いる?」
「お前ならやりかねん。」
「褒め言葉ってことにしとく。」
「ご自由に。」
確かに美玲の言う通り、この一ヵ月の間に、ヒナは結構成長した。
助けた時は5歳くらいの見た目だったのに、今は小学6年。
倍近くにまでなってる。
「犬の遺伝子が入ってるから成長が早いのかもな。なんかちょっと不安・・・。」
「何が?」
「寿命が短かったら・・・。」
「それは大丈夫じゃない?」
「なんでそう言えんだ?」
「僅かだけど段々成長が遅くなってる。初めがクイックスタートなだけで、人間に合わせていくんだと思う。」
「そうか。なら安心だな。」
美玲の物を見る眼は鋭い。
そんなコイツが言うんだから確かだろう。
「ごはん!!ごはん!!」
「は~い!」
目の前に草の広場があって、その奥に朝の街が一望できるベンチを見つけて俺達はそこで朝食にすることにした。
「じゃじゃ~ん!!コンビーフとニンジンのサンドイッチで~す!!」
「こんびー!!こんびー!!」
「は~い!そいじゃ!いただきま~す!!」
いや~中々にいい朝だ。
ここは並存世界、ロイヤードシティ一番の自然公園だ。
大都会のド真ん中にあるにもかかわらず、森林浴やレジャーができて、この街有数のリラックススポットだ。
NYに行った時、一回セントラルパークで足を運んだけど、ここはそこと比べるとレベチに爽やかだ。
並存世界の方が、案外空気が澄んでるのかもな。
とまぁマイナスイオンを全身で感じながらサンドイッチを食べてると、ヒナがニンジンをつまんでランチボックスに戻してるのが見えた。
「ヒ~ナぁ~?」
「くぅ?!?!」
「ま~た好き嫌いしてぇ~。ニンジン残しちゃダメでしょ~?」
「くぅん・・・。」
最近になってヒナが、甘味のある野菜が苦手なのが分かってきた。
ゆっくり治しているのだが、スキを見つけてどうしても残そうとする。
「バランスの取れた食事しないといけない。健康の絶対条件。」
「そういうオメェは何セロリをジップロックに入れてこっそり持ち帰ろうとしてんだッッッ!!!」
「ちっ。」
「❝ちっ。❞じゃねぇよ!!俺らが手本にならないとダメでしょ~が!!」
「セロリの95%は水分。しかも苦い。結論、ただ苦いだけの食べれる黄緑の水。」
「ちゃ~んと食物繊維とかビタミンとか入ってんの!!疲労回復とか美肌効果が期待できんの!」
「私にそんなのは不要。塩テッチャンとオールフリーで十分。」
「おっちゃんかよオイッッッ!!!」
ダメだヒナの好き嫌いを解消する前にまず美玲を何とかしないと。
朝散歩で運動は習慣化できた。
次は健康バランスの取れた食事の徹底が課題か・・・。