第4咬―別世
「頼太、目開けて。」
恐る恐る目を開けると、俺達はどこかの部屋の中にいた。
「怖かった?」
「ビビるに決まってんだろ?世界の壁を跨ぐんだからな!でさ・・・。」
俺は引っかかってることを美玲に聞いた。
「なんでお前はそこまで冷静なんだよ?」
「えっ~とね・・・。キャラ?」
コイツもしかしたら迷宮にほっぽり出されてもボーっとしてられるんじゃないか?
いや。
下手すりゃ寝るかも。
「まぁいいや!とにかく行くぞ。うかうかしてらんねぇ。」
「❝獣は狩り場で止まらず。❞だね?」
部屋を出て廊下を進むと、あることに気が付いた。
ここって、見た感じ宿屋ってところか?
内装は石造りで、ファンタジーにあるような古風な雰囲気だ。
だけどドアに全部・・・なんか電子ロックみたいなのが施されている。
そういえばエキドナの奴、この世界は魔法と科学が一緒になった独自の技術が発展してるって言ったっけか。
なるほど。これがその一端ってワケね。
「ん?」
廊下を抜けると、結構広いところに出た。
シャンデリアが3つあって、向かって右側にはレストランやサロンがある。
左側には、電光掲示板があって、そこに何て書いてるか分からないけど、クエストの依頼文のデジタル版みたいなウィンドウが乱雑に配置されている。
「これは・・・思ってたより慣れるのが大変そうだな。」
「異世界のイメージぶち壊し。これじゃアパのフロント。」
「こっちまでそう見えてくるからやめろ。」
「でも内装は古代ギリシャ風。エキドナの嗜好が入ってる。」
言われてみりゃ確かにそうだ。
となると・・・ちょっとは落ち着くな。
「って、おおい?!?!」
まったりした気分な俺を放って、美玲は前の受付にスタスタ向かっていった。
「ほんっとマイペースな奴!!」
慌てて俺も付いていった。
「んんっ?あっ!」
受付にネクタイタイプの燕尾服を着た女の子が立っていた。
肌が小麦色で、髪をポニーテールにまとめた、背が高めの。
その顔を見た瞬間、俺はホッとした。
「こんばんは。」
「やぁへびまるちゃん!!久しぶりだね。」
「フフッ。相変わらずお元気そうで何よりです。その可愛らしい呼び名も。」
この子がエカトー。
日本でも俺達の仕事を何かと手伝ってくれてた、タルタロスのフロントガールだ。
目がヘビみたいで丸いから、親しみを込めて昔から❝へびまるちゃん❞って呼んでる。
「エキドナからお話は伺っております。」
「いやホント参ったよ!仕事が減ってきたところにいきなり異世界で仕事してこいって言われんだもん!!へびまるちゃんも最初は戸惑ったでしょ~?」
「母のお役に立つのが、娘として当然の孝行と心得ております。苦には感じません。」
爽やかな微笑みをしながらへびまるちゃんは言った。
お互い子どもの頃からの付き合いだけど、マジ出来た子だわ・・・。
「頼太エロいこと考えてる。」
「は!?何言ってんのお前!!」
「人間も所詮は動物。種保存のための下心には逆らえない。」
「ちっ、違うからねへびまるちゃん!!俺は君にそんなアホなこと考えてないから!!」
「頼太様には美玲様がいますからね。」
変わらず可愛い笑顔で言ってくる・・・。
これは褒めてると捉えるべきか?
それともけなしていると捉えるべきか?
「へびまるちゃん。依頼人は?」
「フロント奥の、一般のご利用者が使用できないお部屋でお待ちしていただいております。まずこれを。」
へびまるちゃんは一つのケースを出した。
開けてみるとコインの束が何本かと、ブレスレットが2つ入ってた。
金、銀、銅、紫、赤、青の6種類だ。
「こちらの世界の言葉が視覚と聴覚の両方で翻訳されるブレスレットです。コインの方は、この世界での私達の社会で流通している通貨です。お二方の銀行預金口座から、代表が換金いたしました。」
人様の貯金勝手に覗いて、しかも別世界の金に両替までするなんてプライバシーもクソもないな。
「ありがとさんってエキドナに伝えといて!!」
「はい。」
俺はケースからコインを何枚か雑に取ると、ポケットに入れてフロントを後にすることにした。
「じゃあちょっくら行ってくるわ!!こっちでいいんだよね?」
「一回で覚えてよ。ブルーベリー食べてる?」
「うるっせ!」
「フフッ。」
「ん?」
「またこうしてあなた様方をお迎いできることを光栄に存じます。オルトロス様。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「うん!!」
「ありがと。」
へびまるちゃんの、とっても嬉しそうな顔を見て、俺達も心が温かくなった。
「うし!!じゃあやりますか。異世界の初仕事!」
「やることは変わらない。晴らせない怨みを喰らうのが、オルトロスの仕事。」




