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第38咬―理苦

「ふぅ~・・・!よし。」


これで全滅。


高所作業車のクレーンなんて初めて使ったけど、まぁまぁだったな。


ただリーチが頭ん中で考えたより長くなるのには気を付けないと。


「と、そんなことより・・・。」


後ろを振り返って柴ちゃんの様子を確認した。


階段の裏でしゃがみ込んでジッと私を見てる。


無感情で、真ん丸見開いた目で。


()()()()()・・・わな。」


クレーンをガランと捨てて、私は踵を返す。


「そこで待ってて。私一人でさが・・・おおっ。」


ちょっとビックリした。


歩き出した私のお腹に柴ちゃんが飛び込んできた。


返り血がベットリ着いた身体に、柴ちゃんは甘えるようで、不安そうで、とっても安心したような鳴き声をしながら、ぐりぐりと顔を擦り付ける。


私はグローブを外して、柴ちゃんの頭を軽くポンポンした。


「大丈夫、大丈夫。」


子どもはよく分からない。


勘が鋭くて、それに喜怒哀楽の表現が多彩だから。


だから今の私のこの行動が、合ってるかどうかも定かじゃない。


とりあえず今のところは、「これでいい。」と自己完結することにしよう。


「鼻を良く利かせて。悪い奴等に捕まってる子どもを、一緒に探そ?」





◇◇◇





たくさんのコンテナが貯蔵されてる倉庫を、私は柴ちゃんの嗅覚を頼りに捜索した。


「あう!!あう~!!」


柴ちゃんが倉庫の中だとラージサイズに該当するコンテナの前でぐるぐるしだした。


ここがアタリか。


「よっ。」


コンテナのカギをぶっ壊して、扉を開けた瞬間、酷い光景が広がっていた。


コンテナは無理やり二階建てに改造されていて、両サイドに0.5畳くらいの小さなケージが8、×4の合計32個並んでて、その中に誘拐された混獣人種(セリアソイド)の子どもが入ってた。


風呂に入れてもらえず、糞尿は床に垂れ流しになってるせいで、扉を開けた瞬間、酸味と苦みがぐちゃぐちゃに混ざった臭いが流れ出てきた。


閉じ込められてる子ども達の状態も悪い。


髪はボサボサ、目はギラつき、身体はガリガリでペースト状になった汚物が付きまくってて、コンテナの隙間から入り込んだハエがブンブンたかってた。


本当に物としか扱ってないんだな。


ってかこんだけ劣悪な環境にブチ込んだら顧客からクレーム出るぞ。


いや。


耳と尻尾、それに体毛が生えた獣っ子だ。


物珍しさが全部カバーするからそこは度外視するんだろう。


「とにもまぁ、エグいことするなぁ。」


コンテナの中に入った瞬間、閉じ込められてる子ども達が一斉に騒ぎ出した。


ギリギリまでケージの奥に逃げる子。


丸いハゲで半分以上無くなってるのに、毛を逆立てる子。


狭い狭いケージの中でガシャガシャガシャガシャ暴れる子。


私は手首の翻訳機のスイッチを慌てて付けた。


「だいじょ~ぶだよ!!私がみんなを助けに来たから!」


「怖い・・・怖い・・・怖い・・・怖い・・・!!」


「痛いのヤダ痛いのヤダ痛いのヤダ痛いのヤダ痛いのヤダ痛いのヤダ痛いのヤダ痛いのヤダ痛いのヤダッッッ!!!」


「出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけッッッ!!!」


ダメだみんな恐怖から完全に錯乱状態になってる・・・。


どうやって落ち着かせたら・・・。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんんんんんんん!!!!」


突然柴ちゃんが遠吠えをして、その瞬間騒いでた子ども達がピタッと静まった。


「くぅ・・・くぅ・・・くぅ・・・。」


「柴ちゃん・・・。」


柴ちゃんはケージ一個一個を周って、悲しいけど、どこかホッとするような鳴きを子ども達にかけてやってた。


私にはそれが、「苦しかったよね?辛かったよね?でももう大丈夫。」って言ってあげてるように見えた。


すると子ども達は先程とは打って変わって、助けを求めるような眼差しを私に向けた。


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「待ってて。すぐ出すから。」


こうして私は誘拐された子ども達を救出することができた。


同じ苦しみを受けた人が目の前にいたら、優しく、強くなれる・・・か。


この子の優しさとガッツには目を見張るものがある。


今回は最後のところで何かと助けられた。


柴ちゃんがいなかったら、本当の意味でこの子らを助けてあげることができなかったら頭が上がらない・・・。


「見習わなくちゃ、ダメだな。」


私の独り言に柴ちゃんが頭をかしげたけど、「別になんでも。」って言った。


通じてるといいな。

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