第37咬―軽忠
自分達が乗る車両以外全滅したことに焦ったドライバーは、恐怖で無意識にスピードを速める。
『頼む頼む・・・!!!お願いだから早く着いてくれッッッ!!!』
ボスであるドミニクを励ましたものの、当のマルコも極限状態だった。
そんな彼が後ろを振り返った時、言葉を失った。
頼太が炎上する車らを跳び越えて再び追ってきたのだ。
その姿はまさに、火の海を駆けて通る、血に飢えた狼のそれだった。
「よっ!」
頼太は少し減速して、近くに落ちていた車の破片を木刀の切っ先ですくった。
「それそれっ!!」
刃でくるくると器用に破片を回して、頼太はそれをドミニクらが乗っている車に向かって投擲した。
左後部の稼働部位に破片は直撃し、走行不能になった車はコンテナに激突した。
『ぐっ・・・!ああ・・・。』
激突した側に乗っていたドミニクは、衝撃でサイドガラスに額をぶつけて血を流した。
『ひっ・・・!!!』
軽傷で済んだマルコは上ずった声を上げた。
木刀を持った頼太が、ゆっくりとこっちに近づいてくるのが見える。
『あのクソったれを殺れッッッ!!!撃ちまくって粉にしてやれッッッ!!!』
同乗していた三人の手下が、アサルトライフルを持ってコンテナを盾にしながら頼太に撃ってきた。
頼太は向かってくる百を軽く超える銃弾を全て見切り、華麗に避けてマフィアを一人ずる斬り伏せていく。
「もっ、もうダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
半狂乱になったドライバーがドアを開けて逃げようとしたが、頼太は斬ったマフィアの懐からナイフを抜いて投げた。
ナイフはドライバーの首筋に命中して、彼は大小両方の穴から失禁して息絶えた。
『くっ・・・!くはははははははははははははははははははははははははは・・・。ああよくやるな、アイツ・・・。』
何故か急に可笑しくなったドミニクは、頭を抱えて乾いた笑いをした。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『ボス・・・。俺がアイツを足止めしてる間に倉庫へ!!』
『マルコ、お前死ぬ気かぁ?』
『しっかりして下さいッッッ!!!ボスが生きてたら組織の立て直しなんていくらでもできますッッッ!!!俺に構わず逃げて下さいッッッ!!!』
真剣な眼差しで見つめるマルコに、ドミニクは半笑いになるのを止めた。
『覚悟・・・できてるみたいだな?』
『当然ですッッッ!!!』
『そういえばお前、銃持ってたか?』
『こんな大見栄張っといて何ですが・・・。貸してくれませんか?』
『ほら。大切に使えよ?』
ドミニクから差し出された銃を受け取るマルコ。
その直後、マルコはその銃でドミニクの右目を撃ち抜いた。
『あ゛あ゛ッッッ・・・!!!』
マルコはボスのために鉄砲玉になるつもりはなく、彼を殺して、それを免罪符に自分だけ助かろうという魂胆だったのだ。
それを理解したドミニクは、憤慨して彼を車外に蹴飛ばして撃たれた目を押さえて倉庫まで必死に走った。
『はっ・・・!!はぁ・・・!!!』
荒い息を吐きながらマルコは銃を持って頼太の方に向かって走った。
◇◇◇
あ~あ。
ドミニクのヤツ、土壇場で部下に裏切られたか・・・。
汚ぇマネするヤツもいたもんだ。
『はっ・・・!!はっ・・・!!はっ・・・!!おっ、俺はオルトロスの側に着・・・ふぅ?!?!』
薄ら笑いをしながら走ってきた裏切りモンを、俺は黙って袈裟切りにした。
「つまんないからそのアメリカンジョーク。」
これで残るはドミニク一頭だけ。
デブのオスライオンの腹には何が詰まってんのかね?
想像するだけ時間の無駄か。