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第36咬―子連

数時間前、ミーティングルームで準備を済ました時だった。


「よし。じゃあこの子のことは、また預けるとして・・・ん?」


柴犬っ子が俺の服の袖をくいっくいっと下を向きながら引っ張ってきた。


「どうした?」


しゃがみ込むと、柴犬っ子は「う~・・・う~・・・。」と俯いたまま小さく鳴いた。


さては寂しいんだな。


留守がちな上に、俺達の行く先々は、命の保障が100%できない場所ばかり。


ワンちゃんは勘が鋭いって聞くから、この子なりに察しが付いちゃったのだろう・・・。


「大丈夫だよ。そんなに寂しがらなくても、すぐに帰ってくるからね。」


俺が優しく頭を撫でると、柴犬っ子はプルプルと大きく首を振った。


まるで、「違う。」って言いたげに。


「寂しくないの?じゃあどうした?」


「う~!!う~!!」


参ったなぁ・・・。


気持ちは分かってあげたいが、会話ができないんじゃどうにも・・・。


頼人(らいた)。」


「なんだよ美玲(みれい)。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「一緒に行きたいんだよね?」


「あうッッッ!!!」


美玲の言葉に柴犬っ子は、首を縦に振って大きく鳴いて返事した。


そっ、そんなの・・・!!


「無理に決まってだろ!?俺らがこれから行こうとしてるトコがどういう場所か分かってんのか!?」


「もちろん。」


「だったら・・・!!」


「私はいいと思う。」


はっ、はぁ・・・!?


「理由は?」


「犬の嗅覚は刺激臭を嗅ぎ分ける場合だったら人間の1億倍にもなる。誘拐された混獣人種(セリアソイド)は劣悪な環境で監禁されてる可能性が大。私の鼻よりよほど役に立つ。」


「っていうと何か?テメェはこの子を猟犬代わりにマフィアがゴロゴロいる倉庫に連れて行こうってワケか?」


「使えるモノは使う。それが私のポリシー。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「この子は犬なんかじゃねぇんだよ。」


さすがにブチ切れて美玲に掴みかかろうとした瞬間、柴犬っ子が間に入って止めた。


「そこどいて。コイツを殴るから。」


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・!!!」


腕をバッと広げて、柴犬っ子は犬歯を剥き出しにして俺に唸った。


だけどそれは俺にとって、この子が「覚悟は決まってるから連れていけ!!」って言ってるようなモンだった。


「どうしてお前・・・そこまで・・・。」


俺達とこの子は、出会って数日しか経ってないし、この依頼が完了したら離れることになる。


正直こう言っちゃなんだが・・・()()()()()()()()


俺達がこの子を付き合わせることも、この子が俺達に付き合うことも、全然必要のないことなのに・・・。


「頼太。大事にするのはいいことだと思う。だけど覚悟を汲んでやるのも必要だよ。」


「美玲?」


「この子寝てる時、寝返りしながら私と頼太に交互にピタッとくっついてた。その時理解した。私達が仕事に行ってる間、この子がどれだけ心配してか・・・ね。小さな子が親の帰りを心待ちにするのは至極当然。それが銃弾と血しぶき飛び交う、()()()()()()()だったら?心配で心配で・・・胸が張り裂けてしまうような思いをするはず。」


「親って・・・。俺達がか?」


「もうこの子にとって私達はそれだけ大きな存在になってしまったんだよ、頼太。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「あ・・・。」


「お・・・?」


今まで腕を広げていた柴犬っ子が俺の腹に、ぎゅっと抱きつき、その後美玲にも同じことをした。


もうこの子にとって俺達は・・・親同然ってワケか。


こんな、親になる資格なんて全然ない仕事してるってのに・・・。


「はぁ・・・。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「この子に何かあったらそん時は・・・分かってるよな?」


「喜んで差し出すよ。私の首。」





◇◇◇





私の首なんかが罰になるのか・・・。


「あんな約束、するべきだったか・・・?」


珍しくモヤモヤしながら、私は倉庫のドアを壊した。


『なっ、なんだ?!?!』


『オルトロスの女の方と・・・混獣人種(セリアソイド)のガキ?』


向こうがあたふたしてると、一人のマフィアがピンときた。


『あっ、アイツ・・・!!奴等が盗んだシカゴの競りの目玉じゃ・・・!?』


『本当だ!!こんなところに連れてくるなんざ意外と馬鹿な連中だぜ!!ここで奪って商品にブチ込んじまお・・・くけっ?!?!」


ナイフを持って向かってきたマフィアから、逆に得物を奪ってこめかみを刺した。


「この子に爪先でも触れれると思うならどうぞ?全員喰う。」


白目を剥いてこめかみの穴から血とゼラチン状の何かを噴いてビクビクする仲間の死体に、マフィア達は全員総毛立った。


そんなもの気にせず、私は近くの上に伸びた高所作業者のクレーン部分をタイヤ部から折って片手で肩に置いた。


「子連れ化け狼が通るよぉ~。死ぬ準備が出来た奴から来い。」

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