第35咬―荒刃
夜の倉庫街を魔科で動く数台の車が連れ立って走る。
列の中央の車にいるのは、ボスのドミニクと秘書のマルコ、近衛の子分が三人。
ドミニクが葉巻を胸ポケットから取り出すと、マルコがジッポで火をつけてくれた。
ドライバーの並存世界人が、車にタバコの臭いが付くのを嫌がることもお構いなしに、ドミニクは車内に紫煙を充満させる。
『運び出した荷は全て未登録の訪界門がある島に移します。』
『そうか。』
『タルタロスの代表とも話がつきましたし、掟違反については一安心ですね。』
『用心棒一人で処分が帳消しになるんだから安いものだ。』
『しかし・・・彼女に我々の動きを話したのは、さすがにマズかったのでは・・・。オルトロスにバレると・・・。』
『大丈夫だ。処分を取り消すついでに連中への依頼も代表権限で中止すると約束してくれた。殺し屋の組織の代表というのは影響力が高いからな。奴等も頭を縦に振るしかないだろう。』
『そう、ですか・・・。なら、安心ですね。』
『まぁな。とりあえず、次のオークションの目処を立てないとな。混獣人種は需要が高い。欲しがる客は、まだまだ出て来るからな。』
葉巻を吸いながら意気揚々とドミニクは今後の事業展開を考えた。
エキドナとの約束など、ただのリップサービスだと知らずに・・・。
『ん?ッッッ・・・?!?!』
右を見たドミニクは驚愕した。
なんと木刀を持った頼太が自分達が乗る車と並走していたからだ。
『おっ、オルトロス・・・?!?!』
マルコが驚いた直後、ドミニクの乗る車の後方を走る2台が頼太の後ろに回って、マシンピストルを撃ってきた。
「うっとうしいなぁ・・・。っし!!」
頼太はバク宙して、2台の内の後ろの車の天井に飛び乗った。
「ぐげっ・・・?!?!」
頼太は運転する並存世界人の脳天を天井から正確に貫き、コントロールを失った車は大きく右に曲がった。
「よっと!」
横転する直前に頼太は飛び降り、そのまま前の車の横に付いた。
「くっ・・・!!」
「こんばんは!」
ドライバーが魔科銃を抜く前に、頼太は突きで発生させた風で顔面をブチ抜いた。
フラフラ走行になった車は近くの倉庫に激突し、爆発炎上した。
『どうしてオルトロスが!?エキドナと話付いたんじゃなかったんですか?!?!』
混乱するマルコの横でドミニクは吸っていた葉巻を取って握り潰した。
『あの蛇女・・・!!騙しやがったなッッッ!!!』
今更エキドナに憤慨したところで後の祭り。
状況は自分達の悪い方にドンドン転がるばかり・・・。
「おい異世界人!!無線をこっちに向けろッッッ!!!」
ドミニクに命令され、ドライバーは車に備え付けの無線を彼に向けた。
「Kill Fucking DOGGYッッッ!!!」
ドミニクから切羽詰まった指示が飛び、前方の車3台がUターンして頼太に向かっていった。
「まだ来んのかよ~・・・。のんびりしてらんない。一気に片づけるか。」
頼太は立ち止まり、木刀を大きく横振りに構える。
「護主命絶流・騎馬薙ぎ!!」
頼太が木刀を薙ぎ払った瞬間、3台全ての車が横に真っ二つになり、凄まじい爆発が起こった。
後ろからその光景を見て、ドミニクは青ざめた。
『すっ、すぐに我々の倉庫に着きます!!きっと助かりますからッッッ!!!』
マルコが震えるボスを励ます。
しかし彼らの希望は、すぐにへし折られることとなる。
場面は変わってレオンハルトファミリーの所有する倉庫の入口。
ドアの前にはアサルトライフルで武装した男が一人。
「どうも。」
後ろから声がしたと思ったら、美玲が彼の首を掴んでバルーンアートで使う風船みたいに握り潰した。
「出ておいで。」
美玲ののほほんとした声色に呼ばれ、物陰から誰か出てきた。
「じゃあ捕まってるお友達を助けに行こうか。くれぐれも離れないようにね、柴ちゃん。」
「あうッッッ!!!」
尻尾を大きく振って、柴犬の少女は勇気に満ちた表情で大きく頷いた。