第34咬―特刑
上質な木材で造られた床を、激しい貧乏ゆすりの振動が伝う。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あ゛あ゛ッッッ!!!」
ドミニクはデスクに置かれたテキーラの注がれたグラスを本棚に投げつけた。
『ボスどうか落ち着いて・・・。』
『落ち着けるワケないだろッッッ!!!釘山の野郎!!昨日逃げる時にフラッとどっか消えたと思ったらオルトロスのトコに殴り込みに行きやがった!!調子のいい声で掛けてきた黒電話の逆探かけてみたらよりにもよってタルタロスの施設だった私のゾッとした気持ちが分かるか?!?!今頃アイツはくたばってるだろう!だが掟を破ったら破った奴の雇い主も連帯責任で処分される!!この組織も私も・・・何もかも・・・おしまいだッッッ!!!』
半狂乱になってドミニクは書斎のラージデスクをひっくり返した。
と、その時・・・。
❝ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ・・・!!❞
並存世界での転移者の連絡手段に用いられる黒電話のベルが鳴った。
『もしもし・・・。』
『エキドナだ。』
『ッッッ!!!』
ドミニクは思わず受話器を落とすところだった。
❝殺し屋組織・タルタロス❞の代表から直々に電話がかかってきたからだ。
『そちらの雇ったボディーガード・・・名前は釘山 御典だったな。タルタロスの管轄施設で掟を破ったこと、知っているね?』
『あっ・・・ううん・・・。』
『怯えているな。まぁ当然だ。掟を破れば雇い主も諸共に処罰される。だが安心しろ。』
『え・・・?』
『掟を破った釘山はともかく、君には酌量の余地がある。なにせ君は、釘山にウチの子を殺そうように依頼してないのだから。よって今回限り、依頼主への処罰は免除しよう。』
『ほっ、本当か?!?!』
『もちろん。そこで協力してほしいことが。釘山をそちらの組織を使っておびき出してほしい。私が出頭を命じたところで応じてくれないと思うからな。』
『よっ、よろこんで・・・!!よろこんで協力しようッッッ!!!』
『フフッ。ありがとう。あと、これは世間話になるのだが・・・。』
◇◇◇
その日の夕方。
釘山はドミニクの組織の幹部と、その取り巻き四人とともに、並存世界のとあるカフェに来ていた。
『ドミニクはまだか?大体報酬金の支払いなんてアメリカでもできるだろうが。』
『これからボスはちょいと忙しくなる。払えるのは今しかないんだ。』
『そうかよ。飛ばされた腕が痛いんだ。早く済ませろよ?』
『手酷くやられたな。でもいいのか?お前・・・掟を破ったらしいじゃねぇか?』
『オルトロスに復讐するのに、掟なんか気にしてられるか。』
『見上げた度胸だな。』
二人が笑い合っている時だった。
年配の女性が釘山の向かいに座った。
「アンタは?」
「タルタロスの代表・エキドナよ。」
「ッッッ!!!」
釘山が慌てて席を立とうとした時に、彼の隣に立つ幹部が取り巻きと一緒に押さえようとした。
しかしそれを待たずに店にいた客、ウェイトレス、マスターといったレオンハルトファミリーと関係ある者以外で、店にいた全員が立ち上がり銃を向ける。
ウェイトレスの一人が、店中のカーテンを閉め、看板を❝準備中❞に裏返した。
『なっ、なんだよコレ?オイ!!コイツを売ったら俺達はお咎めなしだったんじゃねぇのかよ?!?!』
ハッとした後、幹部を睨みつける釘山。
そんな彼らを全く眼中にせず、エキドナは傍に立つエカトーに令状を渡した。
『釘山 御典様。並びにレオンハルトファミリーの皆様方。貴殿らは❝殺商三大掟❞で定められた禁を破り、暗殺組織・タルタロスの管轄施設において正当な取引がされていない殺しを行なうとしました。よって同組織代表エキドナ様の命により、特刑に処します。以上。』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あっ、アイツ等にケジメがつけらんないまま・・・!!死んでたま・・・」
釘山が逃げようとした瞬間、エキドナが彼の眉間に一発の弾丸を撃ち込んだ。
それを合図に、店の客や従業員に扮していたタルタロスの仲間が一斉に発砲した。
「エカトー。電話ちょうだい。」
「はい。ただいま。」
◇◇◇
ミーティングルームの黒電話が鳴って俺は急いで出た。
「もしもし!!」
「私だ。」
「エキドナ・・・。そっちはどうだ?」
「片付いた。それとこれはとあるマフィアのボスとの世間話で知ったんだけど、今夜中に港で保管してる競りにかけてない商品を持って船で逃げるらしいの。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ありがとう。助かる。」
「親が子を助けるのは当たり前。楽しんで来い。」
俺はゆっくり受話器を電話に置いた。
「エキドナ、なんて・・・。」
「終わったってさ。さぁ身支度すっぞ!ここから先は、オルトロスの狩りだ。」




