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第27咬―与幸

次の日のお昼前に、俺達は訪界門(ゲート)を通って並存世界に来た。


「まったく枯竹(カレチク)のボケェ・・・。おかげで俺と美玲の資金の3分の2が吹っ飛んじゃんk・・・うわっ!?」


愚痴を垂れながら訪界門(ゲート)の部屋を出ようとしたら、ドアの前に柴犬っ子が棒立ちでいて思わずぶつかりそうになった。


「えっと・・・どした?」


話しかけてみるが、柴犬っ子はビー玉のような目をしながら真顔で何も答えない。


「ああっ・・・!やっと帰ってきてくれましたか。」


「へびまるちゃん。どゆこと?」


「お二人が日本にお戻りなられてからこの子、ずっとこの部屋の前で動こうとしなかったのですよ。」


俺はハチ公並の忠犬っぷりをした柴犬っ子に抱きついて頬ずりした。


「おっ、お前・・・。そんなに俺達のことが・・・!」


「むぅ・・・。」


「ご飯とトイレは行って、夜中はここで敷いた布団で寝てましたけど。」


「えっ・・・。ああ、そう・・・。」


なんかちょっと・・・感動が、しおれる・・・。


「まっ、まぁ!ずっと待ってくれたってだけでも懐き始めた証拠だわな!!なぁ美玲?」


「頼太、ウザがられてる。」


「ふぬぬ・・・!!みっ、ミーティングルームに戻ろう!!今後レオンハルトファミリーをどう狩り立てるかプラン練らねぇと!」


「あっ、その前に。」


へびまるちゃんは、懐から封筒を出した。


そこには❝恵福の会付属健栄病院❞の文字が。


「頼まれていた、この子の遺伝子検査の結果が昨夜、届きました。」





◇◇◇





テーブルの上に広げられた書類を前に、俺ははらわたが煮えくり返っていた。


美玲はいつも通り冷静な表情。


「・・・・・・・。クソが・・・。」


検査の結果、俺の見立て通り、この柴犬型の混獣人種(セリアソイド)は人工的に造られたモノだった。


未知の技術・・・十中八九魔科だろう。


それと一緒に俺達の世界の科学力で遺伝子操作の痕跡が確認された、人間と柴犬のDNAが検出された。


おそらく、俺達の世界の遺伝子操作技術をベースとした、魔科によって生み出されたんだろう。


これだけなら、言葉は悪いがまだ許容範囲だった。


だけど答えはもっと残酷だった。


検出されたDNAから、なんと()()()()()がされた。


合致したのは・・・レオンハルトファミリーに拉致された、アメリカ人の女の子。


連中が斡旋したあくどい消費者金融に嵌った女性の子どもで、借金のカタとして無理やり連れて行かれたらしい。


つまりこの子は、拉致されてそのままこっちの世界に連れて来られ、非人道的な実験で柴犬と人間との混合(ミックス)に変えられてしまったということだ。


こないだ俺達が襲った貴族は魔科技術発展省のお偉いさんらしい。


そいつが裏から手を回したんだろう。


❝合成は成功しましたが、その後遺症でこの子の知能は犬レベルにまで後退してしまったようです。言語能力が回復する見込みは、ゼロかと。❞


へびまるちゃんはそう付け加えた。


俺はテーブルを『ドン!!』と殴った。


殺しの的にこんなに憎しみを抱いたのは、この稼業を始めて以来かもしれない。


「クソ外道どもッッッ!!!子どもにこんな酷いマネしやがって!!テメェらの腐った欲のためによぉ!!!」


俺はイスを思いっきり蹴飛ばした。


「頼太、仕事に自分の憎悪を混ぜてはいけない。❝原則(ルール)違反❞になる。」


「分かってる・・・。分かってるけど・・・ああ!!」


俺は頭をかきむしってその場にうずくまった。


「なぁ美玲。なんで神様はこんなにも酷いことができるんだ?」


「頼太?」


「俺達、今まで理不尽な目に遭ってきた依頼人の晴らせない怨み、たくさん晴らしてきたけどよぉ・・・たまに思っちまうんだ。❝真っ当に生きてる人が、どうしてクズのせいで苦しまなきゃいけないんだ。❞って。世界ってそんなに残酷か?なんで神様は幸せを、受け取るべき人らに与えてくれないんだ?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「❝禍福は糾える縄の如し❞ってことわざあるじゃん?私、あれ大嫌いなんだよ。」


「え・・・?」


「神様は幸と不幸を交互に与えるっていうけど、無神論者的な考え持つ私にしたら、70億もゴロゴロいる人間の幸不幸のバランスを、神様は考えてやれんのかってこと。国と同じだよ。トップにだって富裕層貧困層の割合を、完璧に把握してるワケじゃない。神様だったら尚のこと。自分の世界で、誰が幸せになって、誰が不幸になるなんて分からんし、知ったこっちゃない。」


「それで・・・何が言いたいんだよ?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「人を不幸にするのも人。なら人を幸せにするのも同じ人にしかできないってこと。」


「美玲・・・。」


「寒さで道端で凍えてる人に宝くじ一等分の大金が転がり込む運より、放っておけないと思った通りすがりの人が、毛布とあったかいコーヒー、暖房のきいた部屋に入れてあげる方がよっぽど確実。この子の場合だってそう。この子がマフィアどもから受けた不幸はもうどうやったって消せないし、塗りつぶせない。だったら誰かが、そんなものが比較にならないほど、この子を幸せにしてやればいい。」


「誰かって?」


「私じゃないのは言える。だけど・・・。」


袖を引っ張られて振り向くと、柴犬っ子がボールをくわえて俺に渡した。


どうやらこれで、遊んでほしいみたい。


「できることからコツコツと。それが基本で一番大事。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「オッケー。一緒に遊ぼっか?」


「あうッッッ!!!」


会って始めて、嬉しそうな声を出した。


・・・・・・・。


・・・・・・・。


ちょっと前進、かな?


「私も一緒に。」


「え~ヤダなぁ・・・。」


「なんでよ?」


「だってお前とボール遊びすると100パー殺人サーブかましてくんもん。」


「大丈夫。この子には絶対当てないようにするから。」


「俺が大丈夫じゃないんだよッッッ!!!」

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