第26咬―憐猫
深夜2時。
暗く静まりかえった住宅街に、3台のワゴン車が止まった。
そして中から黒キャップを被って半袖シャツと革手袋までも黒という、いかにも怪しい男達がぞろぞろ出てきた。
顔はマスクを付けているせいで伺えないが、全員体格はガッチリしてる。
『おい開けろ。』
英語を話す男が指示を出すと、男がピッキングで2階建ての一軒家のドアのカギを開け始めた。
『オルトロスを殺したら、部屋の中を手当たり次第に荒らせ。強盗の仕業に見せかけるんだ。』
男達が示し合わした直後、カギがガチャリと開いた。
『よし。じゃあ行くぞ。』
家に忍び込みながら、男達はズボンのウェストの後ろからサイレンサー付きの銃を抜く。
順々に全身黒づくめの男達は玄関へと入っていき、最後の一人がゆっくりとドアを閉め、カギを閉めた。
リーダーの男が指を差して、仲間は家中に散開する。
一人が洗面所に足を踏み入れたその瞬間だった。
『カチッ!』という音がしたと思ったら、家中の明かりが一斉に点いた。
「good evening, and NIGHT。」
男の目の前にブレーカーを上げる美玲が立っており、男の胸の中心にストレートを決めた。
男の肋骨は粉々になり、衝撃に耐えられず心停止した。
「やっぱり並存世界ほどの力は出ないか。」
『なっ、なんだ?!?!』
突然明るくなった眩しさで視界がはっきりしないでいると、階段から木刀を持った頼太が駆けてきた。
『オルトロスだ!!殺れぇ!!』
頼太に向かって咄嗟に銃を向けるが、頼太は正確に3人の男達の頸動脈を木刀で斬っていき殺していく。
「SHITッッッ!!!」
キッチンのカウンターまで追い詰められた男が頼太に発砲するが、頼太は凄まじい動体視力で避け、男の銃を木刀で破壊すると、そのまま彼の口にそれを突っ込んだ。
「ゴゲッ・・・グッ・・・。」
木刀は男の口から頭部を貫いた。
『バケモンがぁ!!!』
仲間の死に激昂したマフィアが頼太を撃とうとするが、頼太は白目を剥いて絶命する男の口から木刀を抜いて投擲した。
木刀が眉間に突き刺さった男は、怒りか苦悶か見分けがつかない顔をしながら絶命した。
『チッ・・・!!逃げるぞッッッ!!!』
襲撃が総崩れになってしまい、リーダーは生き残った4人を連れて玄関まで走った。
『人様の家襲っといて逃げんなや。』
逃げる男達の前に美玲が立ちはだかり、4人の頭を砕いてリーダーに畳みかける。
「そぉ〜れ!!」
美玲はリーダーを裏拳でテーブルまで吹っ飛ばしたが、威力不足で殺すところまでいかなかった。
『こっ、このクソ野郎ど・・・ゴゲッ?!?!』
左目が潰れた状態で美玲に照準を合わせようとした刹那、頼太の木刀の切っ先が落ちてきて、横這いになったリーダーの頬に突き刺さった。
◇◇◇
「これで全員か。」
「敵のアタマ、横取りされた。」
「たまたま転がってきたからな。そうむくれるな。」
「で?どうする?」
「どうするって、安眠妨害の苦情入れるに決まってんだろ。」
俺は先程殺した男のズボンのポケットからスマホを出して、死体から指紋を読ませてロックを解除した。
『殺ったか?』
『レオンハルトファミリーボスのドミニク=ロッドさん?』
『お前・・・!オルトロスの・・・!!』
『依頼人との交渉兼ケア担当の頼太です。こうして話すのは初めてですね。』
『ウチの精鋭たちはどうした?』
『まとめて返り討ちに。ってかあんなのが精鋭?神話の怪物殺すのに、ヤマネコなんか送るなバカ。』
電話口の向こうで、ロッドは深呼吸をした。
『お前らへの依頼料の倍の金を出すから今回の仕事からは手を引け。俺としても、これ以上事を荒立てる気は・・・』
俺は電話をガチャ切りした。
「なんだって?」
「ごめん最後聞いてなかった。」
「どうせアホなこと言ったんしょ?」
「多分な。にしてもどうするかねコレぇ~?」
「掃除屋呼んだら?」
「ええっ・・・!?ヤダなぁ~。」
「私達だけじゃこんなん片付けらんない。仕方ない。」
「マジかよ・・・。もぉ~・・・。」
俺はスマホの連絡先から業者の番号を探して発信した。
「もしもし俺。オルトロスの頼太だけど。今から集荷お願いしたいんだけど。人数は11。全員男性。心臓と脳以外は無傷だから。オプションで部屋の片づけと相手方の車の撤去も。はい。お願いしまぁ~す。」
電話からものの20分もしない内にハイエースと冷凍機付きのトラックが一台家の前に止まった。
「ヒヒッ。久しぶり~♪」
「枯竹・・・。」
この気色悪い赤縁メガネ女だけは呼びたくなかったなぁ~・・・。
「最近ご無沙汰だと思ったらまさかの家ン中で大漁じゃないの~?」
「いいから早くやって。近所にバレるから。」
「分かってるさね。アタシとしても、死体は新鮮なウチに手に入れたいからねぇ~♪」
チュッパチャップスを口に入れる枯竹に続いて、白つなぎを着た男達が次々入ってきた。
彼らは死体を棺桶サイズの発泡スチロールにどんどん入れていき、血痕を吹いて、壁にめり込んだ弾を取ってから穴も塞いで、家の中を何事もなかったかのように片付けていく。
「いや~オルトロスの出すモンは頭と胸以外ほぼ無傷だからモノがいいのばかりだよ~♡」
「今回のも高く売れそうだな?」
「そりゃ勿論!ドナー待ちの病人は世の中にわんさかいるんだ。どこからでも金が舞い込んでくるよぉ~♪」
殺し屋の犠牲者の臓器で助かる命があるってのは、なんとも複雑だ。
「それで?料金は?」
「そうさねぇ~・・・。2本もらおうかね?」
「はぁ?!?!」
「いいのかい?払いがエキドナ持ちになるけどぉ~?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「明日朝イチ振り込んどく・・・。」
「ヘヘッ!交渉成立~♪」
だから嫌なんだよコイツに頼むの。
すんげ~ぼったくりだから・・・。