第25咬―東総
俺は昨夜のアメリカ人からくすねた財布の中身をテーブルの上に広げた。
美玲の奴には柴犬っ子の遊び相手になってもらってる。
「ガンバガンバぁ。」
「ふぎゅるるるるるるるるるる!!ふぎゅるるるるるるるるるる!!」
今やってるのは綱引きで、キレ~な姿勢で直立不動の美玲が握る綱を柴犬っ子が口で懸命に引っ張ってる。
「アレはもはや綱引きって言えるんか?」
2人が綱に使ってるのは美玲が本気モードになった時に使う武器。
先っぽがトゲ鉄球になってる七節棍。
言わばヌンチャクの七個verである。
あんなん遊び道具に使うのはあの子の情操教育的によろしいのか?
ってかなんで鉄球(20kg越え)の方を片手で持ってるのに美玲は微動だにしないんだ?
アイツとの付き合いは長い。
しかし最近、美玲が人間かどうかガチで疑わしくなってくる時がある・・・。
「って、アイツ等に目を奪われる場合じゃなかった。手がかり手がかりっと。」
財布の中身は別段不自然じゃない。
誰でも持ってるような物ばかり。
ドル札とセント硬貨数枚、それにクレジットカード類。
あとはどこぞの病院の診察券とか。
にしてもコイツ等、しけてんなぁ~。
所持金が全員30ドル(3000円)以下って。
俺でも手持ちはもう少し多いぞ?
コイツはバイク屋のポイントカードがあと2回で満期か。
うっわ!日付見たら週3のペースで通ってる。
どんだけカスタムすりゃ気が済むんだよ。
なんかこう・・・殺したヤツの財布の中身見るのって気が病むな・・・。
俺あんま好きじゃないんだよ。
テメェで命奪ったヤツの人生のこぼれ話盗み見すんのは・・・。
「なんかないのか・・・ん?」
ふと気づいた。
バラバラのカード類を持ってた三人だけど、全員あるカードだけ共通して持ってる。
黒の背景に、自由の女神が持ってるたいまつをくわえたライオンの全身像が彫られた鉄のカード。
裏面がバーコードみたいになってる。
パスの代わりにもなってるのか?
「えっ~と❝たいまつをくわえたライオン❞がシンボルになってるアメリカの裏組織は・・・。」
持ってる手帳から目ぼしい組織をピックアップする。
「これか・・・。」
❝レオンハルトファミリー❞
アメリカ東海岸を牛耳ってる巨大マフィア。
自由の女神のたいまつをシンボルに入れることで❝自分達こそが東アメリカの真の支配者❞だってことを強調したいらしい。
主なシノギはカジノに銃密売、権力者を脅しての闇献金。
そして・・・児童人身売買。
「やっと見つけたぜ。オルトロスの狩る獲物が。」
◇◇◇
「それで?シカゴのオークションの目玉商品を盗ったのはオルトロスだって?」
「はい・・・。あっちの世界の誰かが連中に依頼したみたいで・・・。」
ボスの書斎で正座させられた、頼太と美玲が逃がした組員は顔中から冷や汗をダラダラ流していた。
「そうか・・・。もういい。」
ボスは胸ポケットからコルトパイソンを抜くと正座する男の眉間をゼロ距離で撃ち抜いた。
側近たちにも一気に緊張が走る。
「おい。アイツ等の住んでるところは分かるか?」
「いっ、一応。普段は高校生として暮らしてますので・・・。」
「ふぅ・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ボス?」
「腕利きの奴等に新しい偽造パスポートと日本行きのチケットを用意しろ。オオカミ狩りだ。」