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第24咬―不得

「おはようございます。いい朝でございますね。」


「おかえりへびまるちゃん。情報提供ありがとう。おかげで昨夜は満足な殺し(狩り)ができたよ。」


「フフッ。それはよかったです。それで、獲物の目星は?」


「転移者が3人。多分全員アメリカ人。財布に入ってるモンから組織(ファミリー)を特定できると思う。」


「それは何よりです。それで・・・美玲(みれい)様は?」


「ああ~・・・。それなんだけどさぁ・・・。」


俺は少しずれて、後ろに立ってる美玲をへびまるちゃんに見せてあげた。


「まぁ・・・。」


へびまるちゃんは手を口元にやって驚いた。


5歳くらいの、犬耳、くるりとした巻き尻尾、茶色い体毛が生えた柴犬っ子を抱えた美玲がいたからだ。


昨日洋館から保護した柴犬タイプの混獣人種(セリアソイド)だ。


連れてくる時は結構暴れたけど、今はだいぶ落ち着いた。


だけど眉間にシワを寄せて、おちょぼ口で「むぅ~・・・!」と唸ってる。


「この子がシカゴでオークションにかけられる()()だったみたいでさ、ほっとけないから連れて来た。だっていないはずだったよね?()()()()()()()なんて。」


「そうですね。どうしてこのような・・・。」


「そんでもう一つお願いなんだけど・・・。」


俺は小さいジップロックに入った茶色い毛をへびまるちゃんに渡した。


「この子の毛、ちょっと調べてみてくんない?俺の勘が正しければ、俺達の世界の化学検査にかけても何かしらの結果、出ると思うから。」


「かしこまりました。お預かりします。」


「ああそれともう一つ!」


「何でしょうか?」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「ここってさ・・・託児ルームって、ないよねぇ~・・・?」





◇◇◇





「結局ミーティングルーム(ここ)で預かることになってしまったかぁ・・・。」


「サービス適用外は、仕方ない。」


まぁ表面上冒険者用の宿泊ホテルだとしても、託児ルームなんて置いてないわなぁ。


「ねぇ。そろそろ降ろしていい?手、疲れた。」


「何言ってんの子どもだろ?そんなに重いワケないって。」


「意外と()()のこれが。腕が痺れる。」


「分かった。その子もずっと抱っこってのはイヤだろうからいいよ。」


「よいしょ。」と言って美玲は柴犬っ子を降ろした。


「ほら。入ってゆっくりしていいよ。」


俺が促しても、柴犬っ子は相変わらず不機嫌そうな顔で一点見つめ。


「初めてのところが怖い?俺が手握っててやるから。」


俺が手を握って部屋に入れようとしても、柴犬っ子は、まるで最初からそこに生えていたようにうんともすんともいわない。


「どうした?ほら!おいで!」


「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


柴犬っ子が口をキュッと閉じたままめっちゃ唸ってきた。


「おいこれって、まさか・・・。」


「❝拒否柴❞。」


柴犬は他の犬と違って我が強い性格だと聞く。


ゆえに一度その場で固まってしまえば、不動を貫く。


まさかそれを、獣っ子verでやられてしまうとは・・・。


「まいったなぁ・・・。どうしよ?」


「ご飯を上げて警戒心を解けば?」


「何だったら食べると思う?」


「カリカリ。」


「そんなのこんな女の子に上げれるワケねぇだろ!!特等科なんだろ!?ならもちっとマシな案は!?」


「ワンちゃんの世話はやったことない。おまけに獣人。分かると思う?」


「そこを何とか!!」


「この世界の食料は?」


「それが、閉じ込められたトコに入れられたご飯は食べてないっぽいんだよなぁ・・・。」


「そう。」


考え込んでると、柴犬っ子のお腹から「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」と鳴った。


どの世界、どの種族でも、身体は正直らしい。


「ほらもう無言の催促してんじゃん!!部屋入れる前になんでもいいから早くご飯あげないと!!」


美玲は顎を手でさすって考え込んだ。


「あ、ちょっと待ってて。」


突然部屋を飛び出した美玲。


「ちょっ美玲!!どこ行くんだよ?!?!」


俺はミーティングルームの入口で柴犬っ子と置いてかれた。


ボロの裾を掴んで不機嫌に一点を見つめる柴犬っ子をチラ見した。


「お守りがこんなに大変だったなんてな・・・。」





◇◇◇





1時間ほど経って美玲は帰ってきた。


コンビニの袋L片手に。


「これなら食べるかも。」


「お前何買ってきたの?」


「野崎コンビーフ×10缶。」


「はぁ?!?!なんで買ってきたんだよそんなん!!」


「ファミマで楽天ポイント貯めたかったから。」


「完全な私欲じゃねぇかッッッ!!!」


「それだけじゃない。」


美玲は袋かたコンビーフを取り出して、中身を開け始めた。


「柴犬は血統的にシベリアンハスキーよりオオカミに近い犬種。だから肉には敏感のはず。」


美玲はコンビーフをスプーンですくって柴犬っ子に差し出した。


「いや無理があるんじゃないのぉ・・・。」


柴犬っ子は鼻をヒクヒクさせてニオイを嗅いでる。


そしておそるおそるハムっとスプーンのコンビーフを食べた。


「ッッッ!!!」


目をキラキラさせて巻き尾が根元から飛ぶんじゃないかってほど振る柴犬っ子。


「う~♡♡♡!!う〜♡♡♡!!」


満面の笑顔でジャンプする柴犬っ子。


「もしかして・・・気に入った?!?!」


「やはり私の読みは正しかった。」


ドヤ顔を見せつけてくる美玲に俺はぐうの音も出なかった。


認めたくないが・・・コイツの作戦勝ちだ。


「でも初めての環境に慣れさせるには時間が必要。もう少しここに一緒にいて、徐々に慣れさせよう。」


「やっぱそうするしかないかぁ・・・って、オイ。」


美玲はしゃがみ込んで、柴犬っ子と同じ目線でコンビーフを食べ始めた。


「何お前まで食ってんだよ・・・。」


「言うの忘れた。コンビーフ(これ)、今の私の中毒(ムーブ)。」


「お前まさか、それも織り込み済みで・・・?」


何も言わずに柴犬っ子と並んでコンビーフにがっつく美玲。


どうしようもねぇくらいちゃっかりしてやがる・・・。

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