第23咬―激奪
森の開けたところで、魔科技術で少し浮いてるタクシーが止まった。
「着いたよ。」
「ありがと。はいこれお代。ごめんな魔科決済じゃなくて。」
「いいっていいって。これでしか買えない物もあるし。」
俺の出したコインを、タクシーの運ちゃんは気前よく受け取ってくれた。
「じゃあいい狩りを。異世界の殺し屋さん達。」
タクシーが元来た道を引き返して、俺と美玲は舗装されたハイキングコースを歩き始めた。
日本と違って、並存世界の夜はジメついてなくて過ごしやすい。
「ホントにこっちで合ってる?」
「へびまるちゃん情報によると、シカゴに通じてる訪界門はこの先にあるこの貴族の別荘にあるんだと。そんでな?どうやら今日の昼頃、そこに明らか堅気じゃない連中が入ってったって。おそらく今夜が、荷物の引き渡し日だ。」
「それを奪ってシカゴのオークションをパーにするって?」
「連中に教えてやるのさ。❝お前らは殺し屋・オルトロスの獲物だってな。❞」
しばらく歩いていると、頑丈な鉄門が閉まってる屋敷が見えてきた。
「美玲、お前アレ見てどう思う?」
「見かけは典型的な英国ルネサンス様式の洋館。だけど目には見えない防犯設備がキッチリ備わってる。多分、壁とか壊したらアウト。」
「そうか。なら方法は一つだ。」
俺は竹刀ケースから木刀を、美玲は胸ポケットからグローブを出した。
そしてスーツのネクタイと、スニーカーの靴紐をキュッと締めた。
「❝オオカミのハードル跳び❞だぁ~♪」
俺達は全速力で駆け出すと、壁を跳び越えて、そのまま二階のバルコニーまでいってしまった。
「ちょっ・・・!どんだけ筋力上がってんだよ・・・。」
「でも時間短縮になった。結果オーライ。」
「だな。さぁ~ってと・・・。」
俺は窓ガラスに耳をピタっとくっつけた。
「アレの様子はどうだ?」
「飯に見向きもしねぇ。」
「明日の出品日までには見てくれだけでも良くしろよ。高い金はたいて作ってもらったんだからな。」
「分かってるよ。それで?口止めは万全なんだろうな?」
「請け負ったのは私の旧友だ。滅多にできない仕事ができて満足そうだったよ。念のため実際の工程に携わった者達は消した。」
「じゃあ大丈夫だな。じゃあ晩餐もこれくらいにして早くねようぜ?明日一番で訪界門を通って取りに来るから、身だしなみはキチっと整えないとドヤされる。」
ホント恐ろしいくらいよく聞こえんな。
どうなったんだ俺の聴力・・・。
にしても・・・。
出品日。
ゲートを通って取りに来る。
決まりだな。
でも作ってもらったってどういうことだ?
「頼太。」
「ん?ああごめん。よし。じゃあ始めよか。」
俺達はガラスを突き破って中に突入した。
「なっ、なんだ?!?!」
「カチコミか?!?!」
下から慌てふためいた声が聞こえてくる。
一階の明かりが点いた部屋に入ると、4人の男達が豪勢な晩飯をしてるところだった。
一人はこの館の主人の貴族で、他は服装を見る限り俺達の世界の奴等だった。
「なっ・・・!!子ども?!?!」
「会話聞かせてもらった。荷物は私達が受け取る。」
「はっは!!それは何とも馬鹿なマネを!!殺せッッッ!!!子どもだからって容赦するなッッッ!!!」
男達が銃を取り出した。
現実世界の銃を。
一人が撃ってきた弾を、美玲がいとも簡単に掴んで握り潰した。
「なに?ゴム鉄砲?」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
貴族が上ずった声を上げた。
『テメェらナニモンだ!?』
リーダー格の男が英語で怒鳴ってきた。
『今どきのマフィアって結構アホ?』
美玲が流暢な英語で煽ってきた。
『ガキが・・・!!ブチ殺すッッッ!!!』
男達が銃を乱射してきたが、美玲はそれを全部避けたりパンチで弾いたりした。
そしてとうとう、全員の残弾が尽きた。
「YOU BASTARD!!!」
3人の内の一人がナイフ片手に美玲に突進して、そのまま壁を突き破って外に出た。
『恋人がいなくなっちまったなぁ!!』
『あんなん恋人じゃないし。それに・・・。』
男の、ナイフを持った手が胸に刺さった死体が部屋に飛び込んできた。
『あれくらいで死ぬほどヤワじゃないんだわ。』
「ッッッ・・・!!FUCK!!!」
やけくそに気味のもう一人の男が後ろの食器棚を引っこ抜いてこっちに投げてきた。
俺はそれを木刀で真っ二つにして、男の腹に突きをした。
「んんっ?」
手応えがあんまない。
スーツの下に防弾ベストかなんか着てんなコイツ。
『you die NOW!!!』
マガジンを入れ替えた男が俺の眉間に銃を突き付けた。
「❝護主命絶流・胴穿ち❞。」
力を入れながら木刀を捻ると、男の背中から肋骨と背骨が飛び出し、衝撃波で洋館にデカい穴を開けた。
『あっ、ああっ・・・。』
リーダー格の男は完全に戦意喪失して、へたり込んでしまった。
『なっ、何なんだよお前ら・・・。』
『殺し屋・オルトロス。』
『あ・・・。』
男の顔が一気に青白くなり、「ハッ・・・ハッ・・・。」と浅くて必死な息をする。
『❝お前らがオルトロスの今回の獲物。全員喰う。❞そうボスに伝えて?』
男は半泣き状態で訪界門があると思しき地下に逃げていった。
「転移者、結構強かった。」
「何言ってんだよ。全然余裕だったじゃんか。お互いに。」
「あ、素性聞くの忘れた。」
「どうせこの転がってる2人の身ぐるみ剥げばどこの組織か分かるっしょ。今急ぐことは・・・。」
美玲は頷き、俺達は誘拐された混獣人種の監禁部屋を探した。
貴族は怖くなって逃げたらしくいなかった。
まぁ頼みの綱の転移者があんなことになったらビビるのは当たり前か。
館中、地下もくまなく探したけどそれらしい部屋はなかった。
「どこなんだぁ?」
「頼太。」
地下にかけてあったロウソクスタンドを引くと、行き止まりになってた壁が下に開いて、もう少し廊下が続いていた。
「なるほど・・・。アナログだから現地人には気付かれないってことか。」
隠された廊下を進むと、右側に鉄格子があるのが見えた。
「ここか・・・。」
俺は閉じ込められてる子どもが怖がらないように慎重に明かりで中を照らした。
「おう・・・!?」
「なぬ?」
俺と美玲は面食らった。
中にいたのは・・・柴犬の混獣人種の女の子だった。
この世界にはいないはずの。




