第19咬―危客
アイツとの出会い。
全ての始まりは夏休み7日目のお昼の電話だった。
「はぁ~い。もしも~し・・・。」
「こんにちは頼太様。」
「んあ~・・・へびまるちゃん。」
「なんだかお元気がないようですが。」
「ウチ夏休み期間は昼にエアコン使ったちゃダメなんよ。❝電気代跳ね上がったら小遣いから徴収する。❞って親から下知が飛ばされて・・・。おかげで暑っい暑っい・・・!!」
「あはは・・・。それは難儀なことで。」
「たまんねぇよホント・・・。それで用件は?まぁ・・・暑中見舞いの電話じゃないってことぐらい、察しは付いてるけど・・・。」
「はい。並存世界で新しく1件お仕事のご依頼が。」
「やっぱり・・・。すぐ行くから。」
「お待ちしております。」
電話を切って、俺は寝汗ダラダラでカーペットで横になってる美玲にクッションを投げた。
「んあ・・・らにぃ・・・?」
「お前このクッソ暑いリビングでよく寝れんな?」
「まぁね。じゃあ夕方になったらもう一回起こして・・・痛っ。」
二度寝しようとする美玲のデコを俺はペチンと叩いた。
「出かけっぞ!異世界で仕事が入った。」
◇◇◇
「お待ちしておりましたオルトロス様。」
「よっ!へびまるちゃん。並存世界は割と涼しいね。」
「それでも28℃は超えてるのですよ?」
「日本は35℃越えだよ!?これでまだ暑い方なんて言ってたら干からびるよ?」
「大丈夫です。わたくし基本内勤ですので。」
ニッコニコの笑顔で不平等を突き付けてきやがる。
きっと悪気無いんだろうなぁ・・・。
いいさ。
それがへびまるちゃんのいいトコだ・・・。
「へびまるちゃん。依頼人は?」
「はい美玲様。ミーティングルームで既にお待ちになっております。」
「並存世界の人達はマジで話が早くて助かるな。」
「誰かさんも、見習ってほしい。」
何こっちを見ながら言ってんだよ。
あれか?
俺が時間にルーズだとでも言いたいのか?え?
とりあえずここは無視しよう。
「っしゃ行くかぁ~。今回はどんな狩りになるのかね。」
◇◇◇
ミーティングルームで待ってたのは、無精ひげを生やしながらも、髪型をキリっと整えた40代くらいの小太りの男性だった。
「どうも。あなたがご依頼人で?」
「ああ。君達が殺し屋オルトロスか?まだ子どもじゃないか。」
このセリフを並存世界で言われるのももう何回目か。
なんかもう慣れちまったな。
「大人子供は関係ない。腕は確か。殺しは確実にやる。」
美玲がお得意の威圧を出す。
「ッッッ・・・!!なるほど。確かにそうみたいだ。見かけによらず、しっかりと人殺しの目をしてる。」
ん?
たじろいたがギリギリ平静を保った?
常人なら固まって動けないはず・・・。
「では、改めて自己紹介を。俺はロイヤードシティ警察のボロド=ジミーレス警部だ。」
ッッッ!!
コイツ・・・警察・・・!!
俺が息を呑んでるほんの1、2秒の間に美玲はボロドの頭を握り潰そうとした。
「待てッッッ!!!」
俺が声を荒げると、美玲はギリギリのところでピタッと止まった。
「コイツ、こっちの世界の警察だよ?依頼人かどうかも疑わしい。とっとと消すべき。」
「警官がコイン使ってノコノコ一人でここに来るか!?殺されるんのがオチって普通分かるだろ!!しばらくしない内にテメェの勘、鈍ったんじゃねぇか?!?!」
美玲はボロドの顔をジッと見つめる。
震えているが、ボロドは顔面スレスレのところで止まった美玲の拳をしっかりと見据えてる。
相当な覚悟がないと、そんなマネはできない。
「・・・・・・・。ごめん。」
美玲が拳を下げて、俺はホッと胸を撫で下ろした。
ヒヤッとしたぜ全く・・・。
「あっ、ありがとう。殺さないでくれて・・・。」
「まだ100%信じたワケじゃないが、とりあえず依頼内容を聞こうか?」
「わっ、分かった・・・。」
テーブルに着いてボロドは真剣な眼差しをこっちに向けてきた。
間違いない。
コイツは・・・晴らせぬ怨みを持つ者の目だ。
「君達には・・・事件を追ってる最中に殉職した、俺の部下の仇を・・・討ってほしい!」