第15咬―暴露
私はその後、男のフリをしてカーラと夢の中でデートした。
最初の公園に遊園地、ショッピング街、動物園・・・。
これほどはっきりと夢を見たのは生まれて初めてだ。
これが女夢鬼の能力・・・。
中々にそそられる。
そしてデートの最後にありがちな、夕暮れの展望台のベンチに私達は座った。
「今日は楽しかったなぁ~♪」
「俺もこんなに楽しい夢、生まれて初めてだよ。」
「そう言ってもらえると・・・なんか嬉しいな・・・。」
顔を赤くして俯く姿勢。
いかにも男を落とす小悪魔女子の行動パターンだ。
さて。
ここからどう仕掛ける?
「ミト君。最初から分かってたと思うけど、私・・・。」
「❝女夢鬼❞。だろ?」
何も言わず頷くカーラ。
「だったら、分かるよね?女夢鬼・・・人の生気がないと生きていけないって。」
「でも人魔共通食があるだろ?だったら生気を吸わなくても生きていけるじゃないか?」
「うん・・・。でもね、私のお母さん・・・人魔共通食が食べられないの。」
「そんな女夢鬼がいるの?」
「魔科が普及する前の世代には、人魔共通食から十分な栄養をもらえず、逆に弱ってしまうのもいるの。私のお母さんがそのタイプで、こうして私が人の夢の入り込んで、生気を持ってこなくちゃいけないの・・・。悪い女だよね私って!だけどベッドで寝たきりで、苦しそうにするお母さんのことが、見てられなくて・・・。」
目に薄っすらと涙を浮かべるカーラ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「どうやって生気を渡せばいい?」
「くれるの!?」
「俺の母ちゃんも病弱でさ。なんか、他人事とは思えなくて・・・できることだったら俺、やるからさ。」
「嬉しい!!ありがとう!!」
私の胸に飛び込んでくるカーラ。
「じゃあさ、胸に手を当てて、ハートの火を取り出すようなイメージをしてみて。そうすると、生気を出すことができるから。」
私は、胸に手を当てて、カーラの言った通りイメージしてみた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ごっ・・・?!?!」
私はカーラの顔を鷲掴みにして投げた。
空中で上手いこと受け身を取って、カーラは地面に着地した。
「なっ、何するのミト君ッッッ!!!」
「どうやらお前が死眠り事件の犯人のようだね?カーラ。」
「ちょっと待って・・・。何の話してるの?」
「私が生気を出そうとした瞬間、一瞬だけど瞳孔が開き切って、喉がゴクッとした。アレは上等なエサを前に出された動物と同じだった。母親のことを思ってる時に、そんな欲望丸出しの態度するワケがない。食べたくてしょうがなかったんでしょ?私を。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「なぁ~んだ。バレちゃったかぁ。」
「意外とあっさり認めるじゃん。」
「だってアンタ、そこら辺のバカ男どもと違って頭良さそうだし、言い訳したって論破されるのが目に見えてるモン。だけど私も迂闊だったなぁ~。余所の世界から来たごちそうを目の前につい焦っちゃったのかも。」
「知ってたの?異世界人だって。」
「私が今まで見てきた男の中で一番生気の質と量がいいもん。一発で分かったよ。」
「そうなんだ。それでどうする?このまま黙って私の夢から出ていく?」
「そんなワケないじゃん。ぜぇ~んぶ搾り出すよ。これまでの金づるみたいに♪」
「金づる・・・。そっちにとって男ってそんなものなんだ?」
「アイツ等超面白いんだよ!?ちょ~っと泣いただけですぐコロッと騙されて、ホイホイ生気寄越して来るんだからさぁ!!でもキモオヤジ相手にしたのはヤだったなぁ~。夢でも臭いの!!性根が腐ってる証拠だねアレ!」
「そっか。ちなみにさ・・・何人殺したかって覚えてる?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「考えたこともない。時間の無駄だから。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「良かった。」
「何が?」
「お前がオルトロスにとって相応しい獲物だって分かって。」
「はぁ~?何言ってんのアン・・・ッッッ!!!」
夕暮れの展望台が、雨が降る夜のビルの屋上に変わった。
「なっ、何なのコレ?!?!」
「言ったでしょ?ここは私の夢。こっちの方がしっくりくるわ。」
「私の作った夢を書き換えるなんて・・・!!アンタ何なの?!?!」
「実はさ、私もウソついてた。私さ・・・女なんだよね。」
「うっ・・・!!!」
私の正体を見た瞬間、カーラは上ずった声を上げた。
「ついでにさ、私ここ2日くらいずっと寝てたんだよ。並存世界の人間より生命力あるから来るかな~って思って。そしてこう。お前は私を食べに来たんじゃない。喰われに来たんだよ。」
「本当に・・・何なの・・・。」
わなわなするカーラの前で、私はグローブをはめた。
「殺し屋オルトロスの左首・犬飼美玲。死眠り事件遺族の会からの依頼でアンタを殺す。コウモリはヤバい病気持ってそうで気が引けるけど別にいっか。お前のクズ心、感染りそうにないし。」