第12咬―奪女
ウェンリさんの話してくれた事件の概要はこうだ。
3週間ほど前から、夜間就寝している男性が朝方にベッドの上で死体として発見される現象が多発した。
年齢は10代後半から40代前半。
しかも皆学園生活を満喫したり、会社でバリバリ働いている、言ってしまえばエネルギッシュな男性ばかりだった。
死亡した男性の遺族や関係者を警察が洗ったところ、皆一様に、寝ることが待ちきれなくなったこと、日に日にやつれていくと証言したため、一連の現象が女夢鬼に夢の中で生気を吸い尽くされたことによる殺人事件だと断定した。
「ちょっといいですか?」
「何でしょう?」
「俺達の世界じゃ、サキュバスって夢の中に入って生気を吸うモンスターっていう認識なんですが、どうして警察が殺人事件として捜査するんですか?こういうのって、モンスターを狩る専門家とかが動くのが普通じゃ・・・。」
「私達の世界じゃ人型種族も、人間と全く同じと見られるんです。だから彼らが人を殺せば、人が人を殺したって見なされるんです。」
「なるほど・・・。」
異世界じゃ人型モンスターには差別や偏見がテンプレだが、この世界じゃそんなのはないらしい。
平等な世界だ。
「サキュバスが人の生気を吸うのは生きるためじゃない?だから仕方ないんじゃ?」
「おい美玲!!」
コイツまた余計なこと言いやがって!!
「確かに・・・。」
「はい?」
「そちらの彼女さんの言うことが正しければ、私達も女夢鬼に少しばかり同情できたでしょう。ですが実際は・・・そうはいかないんです。」
「どういうことですか?」
「魔科技術のおかげで、女夢鬼は人の生気を吸わなくても生きれるようになりました。ですがごく一部の女夢鬼の間で、人の生気は通貨として扱われるようになりました。吸い取った生気をお金に換えて生活するならまだいいです。だけど今回の犯人は、死ぬまで生気を吸い取っている・・・。これほどの量の生気を吸い取れば、手に入るお金も莫大になる。気持ちいい夢を見せて生気を全て奪う。こんなの・・・詐欺と同じじゃないですかッッッ!!!」
むせび泣きながら声を荒げるウェンリさんに同調して、遺族会の女性たちも憤りを露わにする。
いい夢を見せてるフリをして男から金より重い生気を搾り取る。
異世界版の頂き女子・・・といったところか。
「ウチの片割れがとんだ失言をしてしまい、申し訳ございませんでした。」
美玲の頭を持って、俺はウェンリさんに謝った。
美玲も悪いと思ったのか、素直に自分から頭を下げた。
「それで、どうして俺達に依頼を?」
「夢の中での犯行なので、当然証拠は残っておらず、警察も・・・ほとんどお手上げで・・・。」
「そうですか・・・。ちなみに・・・オルトロスのことはどうやって?」
「元々噂はあったんです。この集会所が、殺し屋を斡旋していることは。それで、意を決してここの受付嬢に打ち明けたら、あなた達を紹介されて・・・。」
へびまるちゃんだな?
その受付嬢ってのは。
「わっ、私達にはもう・・・あなた達しか頼る相手がいないの!!どうか・・・お願いしますッッッ!!!」
遺族会の全員が俺達に頭を下げてきた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「分かりました。引き受けます。」
一瞬嬉しそうな反応をしたが、ウェンリさんの顔が曇った。
「ありがとう。だけどこういうのって・・・やっぱり高いのよね?」
「報酬は1金貨。俺達はまだ子どもで、身の丈に会った見返りしか求めないのをポリシーにしてますので?」
「そっ、それだけで・・・?」
「今回は団体でのご依頼なので、同額分のコインを全員で出し合うのでもいいですが?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「皆さん・・・よろしいですか?」
遺族会の女性達は頷いて、一人一枚ずつコインを出し合った。
そしてそれをウェンリさんの出した袋に入れ始めた。
そして最後に、ウェンリさんが自分のコインを入れた。
「1アウル分あります。どうぞお確かめ下さい。」
「美玲、頼んだ。」
「はいよ~。」
袋を受け取ると、美玲はものの10秒で数え終えた。
「1アウル分、確かにあるよ?」
「サンキュ。それじゃ・・・。」
コインの入った袋を受け取り、ウェンリさん達に見せつけた。
「アンタ達の晴らせぬ怨み、確かに受け取った。俺達オルトロスが、アンタ達の代わりにこの怨み・・・喰ってやるから安心しな。」