第11咬―多犠
久しぶりの家族団らんをした次の日の放課後。
帰りのバスを待ってた時にスマホのバイブが鳴った。
発信者の欄には・・・。
「もしも~し。」
『こんにちは頼太様。』
『うん。こんちわへびまるちゃん。』
『もう学業は終わってますでしょうか?』
「今学校前のバス停でバス待ってるトコだよ。」
『今日は夕陽がお綺麗ですからね。フフッ。オレンジに光るバス停でバスをお待ちになるお二人のお姿・・・。❝青春の只中の若人❞として輝いて見えますね。』
「アンタはどこぞのばあ様かっ!それで?へびまるちゃんが電話かけてきたってことはもしかして・・・。」
『はい。オルトロスに並存世界でのお仕事のご依頼が、また一件お入りになりました。」
「だよね。一時間後くらいにそっち行くから待ってて。」
『お待ちしております。』
電話を切った俺はスマホをポッケにストンとしまった。
「頼太。仕事入った?」
「そうだ。バス一本ズラすぞ。新横浜行のに。」
◇◇◇
「ようこそお越し下さいました。」
訪界門で向こうの世界に行くと、フロントでへびまるちゃんが笑顔でお出迎えした。
「制服の件、大丈夫でしたか?」
「体育のスポーツテスト飛ばした。明々後日の月曜の放課後に俺だけ追試だよ・・・。」
「ああ・・・。それはご愁傷様でございます。」
「いいんだよ別に。当日だったらぶっちぎりで満点だったと思うからこれくらいでちょうどいいのさ。」
「と、こんな風に気取ってるけど追試ってワード出た瞬間膝から崩れ落ちてさ。アホっしょ?www」
「頭カチ割られたくなかったら草を生・や・す・な!!」
「もう思い出しただけでおひょひょひょひょひょひょひょwww」
「ぐぃぃぃぃぃ・・・!!」
睨み合う俺と美玲を、へびまるちゃんが「まぁまぁ・・・。」と窘めてくれた。
「んん・・・。カッコわりぃトコ見られちゃった。それでへびまるちゃん。依頼人はもう来てる?」
「ミーティングルームでお待ちになっております。ですがぁ・・・。」
「なんか問題ある?」
「お二人にとってこちらでの仕事は二度目ですが、今回は粘らないといけないかもしれません。」
「わ?」
「どういうこと?」
シュンとしながら言うへびまるちゃんの言葉の真意を、俺達は依頼人と会って理解した。
「なっ、なにこれ・・・!?」
ミーティングルームは依頼人たちでごった返していた。
ざっと数えただけで40人はいたと思う。
年齢もバラバラ。
だけど一個だけ共通点がある。
全員女性だった。
「あっ!来ましたよ!!」
俺達のところに、おそらく代表者らしい30代前半の女性が近づいてきた。
「オルトロスさん・・・で、よろしいですか?」
「はっ、はい。そうですが・・・。」
「思ってたよりずっと若い・・・まだ子どもじゃない。」
「あっ、えっと・・・。」
「年は関係ない。騙されちゃいけないよ?」
美玲が下げた指をポキっと鳴らすと、女性の顔が一気に青ざめた。
やはりこういう時にコイツは頼りになる。
この年だ。
これまでも依頼人から不審がられたり、不憫な目で見られたことも結構ある。
美玲がこうして威圧してくれるおかげで、依頼人は本能的に俺達を怖がり、奇しくもそれが信頼に繋がる。
「ごっ、ごめんなさい。疑うようなことを言って・・・。」
「お気になさらず。慣れていますので。それで皆さんは、どういった集まりで?」
「私達は❝死眠り事件遺族の会❞です。私はその代表を務めてます、ウェンリ=リズベットです。」
「死眠り事件?」
「今この街を騒がせている、女夢鬼による殺人事件です。ここにいる人達は皆、私も含めて、家族を、その事件の犯人に夢の中で・・・殺されました。」