第10咬―溺眠
夜7時にお風呂から上がってリビングでくつろいでいると、父と母が一緒に帰ってきた。
「ただいまぁ。」
「疲れたわぁ~。」
「父さん母さん!今日帰宅day?」
「帰れそうな日が最近増えてきてな?せっかくだから母さんと待ち合わせで。」
「頼太悪いけど、私達の分のご飯も作ってくれない?」
「もう~帰ってくんなら連絡しろよなぁ。」
ぶーたれながら俺はソファで爆睡してる美玲を起こすことにした。
「おい美玲!!父さんと母さん帰ってきたぞ!晩ごはん作んの手伝って!!」
「ZzZzZzZzZz・・・。」
マジで起きねぇなコイツ・・・。
イラっとした俺はビリビリボールペンの持つ方を美玲のほっぺに当てて押した。
「ん゛っ・・・?!?!ん゛あ゛あ゛ん゛・・・!」
ビックリした半開きの目で、美玲は俺を見てきた。
「おはよう。父さんと母さん帰ってきたから晩ごはん一緒に作るよ。そっちは米炊きよろ。」
「米ぇ・・・?んがっ・・・!!米盗られるで・・・!!お武士様来る前に隠さな・・・!!」
「戦国時代の百姓かっ!いいから米といてジャーで炊くんだよ!!」
寝ぼけた美玲をシャキッとさせて、一緒に晩ごはんを用意し、俺達家族は久しぶりに食卓を囲んだ。
「にしてもホント久しぶりだよな。こうしてみんなで家でご飯食べるなんてさ。」
「ここんところ落ち着いてきたからな。」
「どゆこと?」
「晴らせぬ怨みを晴らす殺し屋。そいつらのウワサがパッタリ止んだからな。」
俺の心臓がビクゥン!!と跳ねた。
「あなたまだあの事件追ってるの?」
「もう止めてるよ。奴等によるものとされる犯行が一切無くなったからな。胡散臭い都市伝説は健在で、みんな怯えて悪いことしなくなったけどな。❝法治国家を蔑ろにする奴等を捜一の刑事のメンツにかけてとっ捕まえてやる!!❞なんてカッコつけてたけど、こうも簡単に下火になると肩透かししてしまって・・・。」
「私も検察庁の人間だから少し興味を持っていたのだけれど・・・。実在するとしたらどんな人だったのかしらねぇ・・・。」
とりあえず聞き流そう。
右から左に。
「だけどな!!俺をこれはチャンスに変えてやるぞ!奴等のせいで世間からの警察の信用はガタ落ちしちまったから、それを少しでも取り戻せるようにバリバリ検挙してやる!!」
やる気マンマンになった父さんは、片手に茶碗を持ってご飯をガツガツ頬張った。
「父さんかなり張り切ってるね。」
「当たり前だ!それがこの社会のルールだからな。悪党を俺ら警察が逮捕して、そいつらを検察に送検する!!」
「そして私達検事が裁判で徹底的に追及して、然るべき刑を与える。」
「これが法のフードチェーン・・・言ってしまえば❝ロウチェーン❞だ!」
「悪人を囚人に加工して、刑務所で消費する。確かに似てるわね。」
「そんなトゲトゲの輪っかでできた鎖聞いたことないよ?」
なんかこの二人、夫婦になるべくしてなった感があるな。
でもまぁ・・・こういう人達が頑張ってくれたら、オルトロスの出番が無くていいか。
しんみりしながら横を見ると、煮物に箸を突っ込んだまま、またしても美玲はウトウトしていた。
「コイツマジでもぅ・・・!」
俺はアホ面の美玲のおでこを引っぱたいた。
「痛ったぁ・・・!」
「お前ってホントどこでも寝るんだな?」
「私多分宇宙に放り出されても寝れる自信あるわ。」
「そうかい?だったらそのまま宇宙の藻屑になってしまえ。」
◇◇◇
草原が一望できる丘の、大きな樹の下で男と女が会っていた。
男は40代中盤の中年。
対して女は10代後半の少女だった。
「これ。頼まれてたやつ。」
「ありがとう。いつもゴメンね。」
「いいっていいって!コレがなきゃ君は生きられないんだろ?俺もこうして君と夢の中で会いたいからさ。気にしないでくれよ。」
「嬉しい!!♡♡♡」
少女に抱きつかれ、男は鼻の下を伸ばした。
少女のスカートの隙間から、先が尖った尾が顔を覗かせた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
次の日の朝。
ベッドで寝ているまま死んだ男が、彼の妻によって発見された。