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春の章その7:舞さまとリリアン
レシラ「舞さま、それ、なんですの?」
舞「・・・リリアン。」
レシラ「・・・『リリアン?』」
レシラ「あみ物のようですが。
趣味、でしょうか?」
舞「いや、これはほんとに、なんていうか。
趣味ってほどでもない。
好きって訳でもないんだけどね。」
レシラ「そうなのですか。何をあんでるんですの?」
舞「え、なにも。」
・・・。
なにも。
なにも?
聞き方が悪かったのか。
レシラ「あんだら、どうしますの?」
舞「ほどくよ。」
レシラ「ほどいて、どうしますの?」
舞「・・・また編むかな。
びよびよにならない限り。」
謎ですわ。
レシラ「なんで、そんなことをしているのです?」
レシラ「あっ、いや。
そんなこと、じゃなくて。」
舞「なんでだろ、お母さんがやってたからかな。
なんとなく。」
へえ・・・。
そういうと、舞さまは再び、あみ始めました。
ひとことも喋らずに。
静けさが、雨音をきわだたせます。
なにか、哀愁のようなものを感じながら
わたくしも、無言で舞さまを見つめるのでした。