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妖精物語(ふたつの世界)  作者: ぺるしゃ
夏の章
18/91

夏の章その8:舞さまと魔法のおしゃべり


舞「ねえ。魔法ってさ

  どんなのがあるの。」


レシラ「・・・どうしたんですの。

    また、一体全体。」


わたくしが寝転がっていると

舞さまが突然、話しかけてきました。


舞「いや、なんとなく

  気になっただけ。」


舞「質問タイム第二弾。」


『質問タイム第二弾』って、なんですか。

わたくしは、軽く受け流しつつ、返答します。


魔法の話なんて、したくありませんのに。


レシラ「んー・・・。

    すごいのから、しょぼいのまで

    ピンからキリですわ。」


舞「もっと具体的に。」


レシラ「しょぼいのは、空を飛ぶとか。」


舞「空飛べるの? すごくない?」


レシラ「だって、羽で飛べば

    わざわざ魔法で飛ぶ意味なんて

    どこにもないじゃありませんの。」


舞「そっか。空を飛ぶ魔法って

  レシラちゃんも使える?」


レシラ「無理ですわ。」


舞「そか。じゃあすごいのは?」


レシラ「すごいのは、時間を止めるとか。」


舞「えっ。じゃあ、何でもありじゃない?」


何でもあり、うーん。

確かに、そうかもしれないけれども。


レシラ「んー・・・。

    ものすごいことは、確かなのですが。」


レシラ「何でもあり、ではなさそうですわ。」


舞「時間が止められたら

  なんでもできそうだと思うけどな。」


レシラ「・・・たとえば、時間を止める魔法を

    唱えたとしましょう。

    唱えて、好き放題やったとして。」


レシラ「でも、魔法を解除したとき

    魔法を唱える前の位置とずれていると

    変なふうに見えたりするのです。」


レシラ「つまり、工夫をしなければ

    "なにかやったな"というのが

    丸わかりなわけなんですの。」


舞「それは、ちょっとやだな・・・。

  でもさ、時間を止めてる間には

  ほんとに、いろいろ出来そうじゃない?」


舞さまも、ずいぶんと曖昧な表現をしますわね。


さっき、「もっと具体的に。」とか

言ってませんでしたっけ。


などと思いながら、淡々と返事をします。


レシラ「時間をかけても、出来ることには

    変わりがありませんわ。」


舞「うーん。もう少し

  夢のある話が聞きたいんだけど。」


夢のある話と言われても。


レシラ「わたくしたちが生きているのは

    夢の中ではなく、現実ですわ。」


舞「じゃあさ。時間が止められたらさ

  その、無法地帯にならない?」


またずいぶん、打って変わって

物騒なことを考えますわね。


レシラ「無法地帯。」


レシラ「なんて言えばいいんでしょう。

    悪いことに魔法が使えたとしても

    多くのかたは使わないでしょう?」


舞「うーん・・・。」


舞さまは、まだ納得がいかないようです。


レシラ「・・・たとえば。

    あくまで、たとえばの話ですわ。」


レシラ「"ばくだん"という強力な武器が

    人間界にはあるようですが。」

    

レシラ「これを使えるかたも、使おうと思うかたも

    いまの世では、限られていると思いますの。

    今後どうなるかはわかりませんけど。」


レシラ「舞さまも"ばくだん"というものを

    持っていても、使おうとはしないでしょう?」


舞「それは、そうだけどさ。

  でもやっぱり、うーん。」


舞「なんか、そんな

  すごいことじゃなくてもさ。

  もっとこう。」


納得がいっていないようです。

もっとこう。なんでしょう。


舞「うーん・・・。」


舞「たとえば、100メートル走で

  一番になるとか。」


・・・ひねり出した答えが、それですか。


わたくしは、若干、唖然としながらも

またも淡々と答えます。


レシラ「・・・さっき言ったとおり

    その使い方は、現実的じゃありませんの。

    外から見れば、丸わかりですわ。」


レシラ「それに、かけっこで一番になりたいのなら

    身体の能力を上げる魔法とか

    風の力を得る魔法とか・・・。」


舞「かけっこで一番になんて

  なりたくもないよ。」


なりたくないんですか。


なら、なんで「100メートル走で一番になるとか。」

なんて答えたのでしょう。


言っていることが矛盾していませんか。


舞「なんか、やっぱり夢がないよ、夢が。

  レシラちゃんは、やけに現実的なんだよね。」


ひどい言われようですわ。


舞「もし、自由に魔法が使えたら

  もっと好き放題できると思うんだけどな。」


レシラ「・・・わたくしへの、あてつけでしょうか?」


思わず、心の声が漏れました。


舞「・・・あてつけ?」


すこし、ぽかんとした様子でした。


レシラ「なんでもないですわ。」


わたくしは、そう言いました。

舞さまは、少し考え込んだあと、話を変えます。


舞「・・・じゃあ、次。」


舞「その、レシラちゃん。

  真剣なお願いがあるんだけど。」


レシラ「真剣な願い。」


レシラ「・・・はい。

    なんでも言ってくださいませ。」


突然の話題の切り替えに、わたくしは驚きました。


でも、いつになく真剣な、舞さまの顔を見ながら

わたくしも神妙に答えます。


舞「夢のある魔法を、教えてほしい。」


レシラ「はい。」


レシラ「・・・はい?」


舞「なんでも言っていいって

  また言ったよね。」


レシラ「・・・はい。ええ、確かに。」


レシラ「でも、『夢のある魔法』があったとして

    舞さまはどうするおつもりですの?」


レシラ「舞さまにも、ましてやわたくしにも

    使えるわけはないというのに。」


舞「そういうのいいから。

  教えて。それとも、そんな魔法はない?」


一蹴されたわたくしは

しぶしぶ、思考を巡らせます。


それこそ、『夢のある魔法』とかいう

抽象的な存在なんて、考え方、とらえ方次第ですの。


レシラ「ええと、いくつか

    魔法の名前を出してみますので。」


レシラ「興味のある魔法があったら

    それを、聞いてみてください。」


舞「とりあえずわかった。」


とりあえずって、なんでしょう。


と思いつつも、わたくしは気にせず

夢がありそうな魔法の名前を挙げます。


レシラ「創造の魔法。」


レシラ「・・・転移の魔法。」


舞「それだけ?」


わたくしが考えながら話しているのに

舞さまは冷徹に「それだけ?」と。


わたくしは、その反応に少しむきになって

知ってる限りの魔法を挙げました。


レシラ「寝る魔法。明かりの魔法。」


舞「しょぼい。」


レシラ「火の魔法。水の魔法。

    風の魔法。土の魔法。」


舞「なんかありきたり。」


レシラ「仕分けの魔法。治療の魔法。

    並び替えの魔法。監視の魔法。

    追憶の魔法。法則の魔法。」


わたくしが、息を切らしていると

舞さまが答えてきます。


舞「今度は理屈っぽい。」


理屈っぽいって。


さっき「しょぼい」とか「ありきたり」とか。

言ってたじゃありませんか。


舞「・・・じゃあ、最初に出してくれてた

  『創造の魔法』ってなに?」


舞「こういうのは、直感的に出たのが

  一周回って良いケースが多いよね。

  たぶん。」


いかにも、知ったふうな口をきかれます。


わたくしは、創造の魔法について

説明をすることにします。


レシラ「この魔法は、お菓子を

    創造する魔法ですわ。」


舞「・・・お菓子以外には?」


レシラ「ですから、お菓子を

    創造する魔法なんですって。」


舞「お菓子以外は、創造できないの?」


レシラ「おそらく。はい。」


舞「・・・やっぱりしょぼい。

  名前負けしてない?」


その、しょぼいとか、名前負けとかという言葉に

舞さまといえど、正直いらっときました。


レシラ「あの、創造の魔法というだけで

    何を創造するとは、言ってないんですけれども。

    全然、まったく、名前負けとは思いませんが。」


レシラ「というか、創造の魔法で創ったお菓子は

    本当に美味しいのです。

    舞さまは、わからないでしょうけど。」


つい、意地をはったような言い方になりました。


舞「ほんとに美味しいの?」


レシラ「ええ。それはもう。」


舞「どんなお菓子?」


レシラ「たとえば、琥珀色の、透き通った

    カラメルの入った、ふわふわのロールケーキ。」


レシラ「食べはじめは、ふわふわで

    かむと、とろとろのカラメルが

    溶けてきますの。」


レシラ「ふわふわ、とろとろの食感と

    甘くてこく深い、カラメルのおあじが絶品で。」


舞「・・・ほかには?」


レシラ「焼いたりんごのスイーツ。

    でも、ただのりんごじゃないですわ。」


レシラ「あつあつの、焦げ目がついた

    香ばしいりんごの中には・・・。」


レシラ「これまたりんごの、しゃきしゃきの

    冷たいシャーベットが入っているんですの。」


レシラ「甘酸っぱくて、あつあつで

    でも、ひんやりして、不思議で。」


レシラ「思い起こしても、本当に楽しくて

    素晴らしいおあじ。」


舞「レシラちゃん。

  それだよ、それ!」


レシラ「それ?」


舞「夢のある魔法、あるじゃん!

  それだって。私が求めてたの。」


舞さま。さっき、「しょぼい」とか「名前負け」とか

言っていたのが、嘘のような心の変わりようですわ。


舞「すごいな。それってほんとに夢みたい。

  がんばれば、人間の技術でも

  似たようなことできるのかな。」


舞「それに、やっぱり、専属の料理人?

  いや、料理妖精か。そういう人がいるの?」


舞「あと、魔法で、どうやってお菓子をつくるの?

  そのお菓子って、イメージが具体化されるとか

  そういう感じ?」


ま、まって、落ち着いてくださいませ。


わたくしは、ひとつずつ回答します。


レシラ「え、えっと。その。

    まず、人間の技術で、というのは

    可能なものも、あると思いますの。」


レシラ「でも、中には、ちょっと難しいものもあるかも。

    かむまで溶けないようにする、とかの調節は

    魔法でないと、厳しい部分もあると思いますわ。」


レシラ「つぎに、『料理妖精』という存在は

    聞いたことがありません。」


レシラ「民間の妖精たちの中には

    もしかしたら、いるのかもしれませんが・・・。

    いたとしても、かなり希少な存在でしょう。」


レシラ「ふつうの妖精は、食べ物には

    あまり気はつかいませんわ。

    すぐ、お腹いっぱいになってしまいますもの。」


レシラ「魔法は、その、イメージが具現化される、で

    たぶん、合っていると思います。」


レシラ「でも、どんな魔法にも共通していますが

    しっかりとしたイメージを

    持っていないと、難しいことは確かですわ。」


レシラ「・・・いくら魔力だけ持っていても

    想像力がなければ、意味がないという意味です。」


舞さまは、わたくしの言葉を聞いて

メモまで取っています。


そして、しばらく考えると

次の疑問を問いかけてくるのでした。


舞「・・・わかった。ありがとう。

  料理妖精は、居ないんだね。」


舞「じゃあさ、レシラちゃんは

  いつ、どうやって

  その魔法のお菓子を、食べたの?」


舞「ふつうの妖精は、食べ物に

  気をつかわないんでしょ?」

  

舞「そういえば、前にも

  食事は"りんごだけ"で十分とか

  そういう感じだって言ってたし。」


舞「それに、レシラちゃん自身が

  魔法を使ったわけじゃないよね。」


舞「さっきの質問に対しても

  "たぶん合っている"とか

  ちょっと自信なさげだったし。」


舞「この前さ

  "お菓子作りをしたことがある"

  っても言ってたよね。」


わたくしは、舞さまからの質問に返答します。


レシラ「創造の魔法で、お菓子をつくったのは

    わたくしの、その、召使い、といえばいいのか。」


レシラ「召使いではあるんですけど

    召使いじゃないというか。」


舞「・・・なんとなくわかった。

  レシラちゃんにとって、大切な人なんだね。」


レシラ「ええ。わたくしにとって

    大切な妖精ですの。」


舞「名前の方が、言いやすい?」


レシラ「そうかも。ラローネという

    王宮に仕える妖精ですわ。

    わたくしの"母親代わり"ですの。」


舞「母親代わり。

  そうか。そうなんだ。」


舞「うん。ラローネさん、ね・・・。」


舞さまは、どうやらこれも

メモを取っているようです。


舞「じゃあ、そのラローネさんが

  レシラちゃんに、お菓子をふるまってたり

  一緒にお菓子作りをしていたってわけ。」


レシラ「そうですわ。」


舞「お菓子、ラローネさんは興味あったんだね。

  レシラちゃんへの、愛情っていうのかな。

  そういうもの、なのかもしれないね。」


愛情。

そうなのかもしれないと感じます。


舞「そうだ。ちょうど昨日。

  私と一緒にお菓子作り、したよね。」


レシラ「ええ。」


わたくしは、舞さまが作るところを見ながら

本の説明を読みあげていただけですが。


舞「あのとき作ったお菓子と

  ラローネさんのお菓子。

  どっちがおいしかった?」


・・・非情に、答えづらい。


ラローネのお菓子が、わたくしへの愛情かもとか

舞さま自身が、ついさっき言ってませんでしたっけ。


それを言った直後に、これを聞いてくるのかと。


レシラ「ええと。舞さまと作った"カルメ焼き"も

    おいしかったですわ。」


わたくしは、無難な回答をします。


舞「そうだね。おいしかったね。」


舞「でも、さっきのお菓子の説明にあった表現力は

  どこに消えてしまったのかな?」


舞さまは、容赦がありませんでした。


レシラ「え、えっ。」


舞「・・・意地悪だったかな。

  まあいいや。」


舞さまは、時計にちらっと目を向け

わたくしも、それに気付きます。


舞「ありがと。

  ちょっと、楽しかったかな。」


舞さまの言葉を聞いて、ほっとしました。


レシラ「楽しかったなら、何よりですわ。

    ああ。もうそろそろ、寝る時間ですわね。」


舞「そうだね。今日はこれで寝よっか。」


わたくしも、良い気分で眠れそうです。


舞「でも、これで終わりだとは思わないでね。」


レシラ「・・・え?」


舞「今日の質問で、終わりだとは思わないでね。」


レシラ「・・・はい。ええ。

    別に質問は、構いませんが。」


舞「"なんでも、言っていい"

  "なんでも、聞いていい"って。」


レシラ「・・・。」


"なんでも"という言葉を

軽々しく、口に出すべきではなかったかと

少し思いながら。


でも、まあ、楽しいなら

これはこれで、とも思いながら

わたくしは、横になるのでした。


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