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妖精物語(ふたつの世界)  作者: ぺるしゃ
夏の章
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夏の章その7:舞さまと質問攻め


舞「レシラちゃんってさ

  お姫さまなんだよね。」


レシラ「・・・やぶから棒に、どうしたんですの。

    仮にも、一応、そうですけれども。」


突然の質問に、わたくしは答えます。


舞「お姫様の暮らしって、どう?」


レシラ「・・・どう、と、言われても。」


舞「・・・。」


舞「・・・それで終わり?」


レシラ「・・・え? あ、あの。

    ええと、暮らし、暮らし・・・。

    普通に、その。」


突然の"それで終わり?"という声に

少しびくっとしながら

わたくしは思考をめぐらせます。


舞「・・・この前の約束

  まさか、忘れてないよね?」


レシラ「約束?」


お姫様の暮らしに、約束?


わたくしは、そんなことあったか・・・。

と思い返します。


舞「・・・"なんでも、言っていい"

  "なんでも、聞いていい"って。」


舞さまの言葉で

わたくしは思い出します。


レシラ「・・・たしかに

    言いましたけれども。」


舞「じゃあ、答えてもらっていいかな。

  "お姫様の暮らしって、どう?"

  に対して、具体的に。」


わたくしの思っていた

"なんでも言っていい"とは想定がずれていました。


もっと、心に秘めた思いを

隠さずに、我慢せずに言っていいのですよ、のような

そんなニュアンスでいたのですが。


若干たじたじになりながら答えます。


レシラ「具体的に、って。

    ええと、レッスンは大変ですわね。」


舞「レッスンって、何やるの?」


間髪いれずに言葉を返されます。

翔さまとの会話とは、大違いですの。


レシラ「え、ええと。」


レシラ「魔法と、魔法と、魔法と

    魔法と、魔法と、魔法ですわ。」


言葉をつなげようとして

思いついたものは、すべて魔法でした。


舞「・・・魔法以外は?勉強はするの?」


レシラ「歴史は、魔法で覚えますし

    国語も、英語も、数学も、理科もありませんわ。」


舞「えっ、じゃあ、みんなどうやって読み書きしてるの?

  おつりの計算とか、しないの?」


レシラ「読み書きなんて、しないですの。

    みんな、魔法ですわ。」


舞「へえ。」


レシラ「おつりの計算って言われても

    そもそも"お金"なんてものが

    妖精界には存在しません。」


舞「そっか、レシラちゃん

  "お金持ち"って言葉、知らなかったもんね。」


舞「あれ、でも、やっぱりちょっと変じゃない?

  レシラちゃんって、魔法苦手なんだよね。」


・・・面と向かって、苦手なんだよねって

言われるのは、少し、良い気がしませんが。


レシラ「・・・ええ、そうですわ。」


舞「じゃあ、どうやって今、話せてるの?

  魔法の力? じゃないよね。」


レシラ「ふつうは"翻訳の魔法"があるのですが・・・。

    わたくしは、小さい頃から教わっていますの。」


舞「へえ。あ、英語も教わってたのかな。

  レシラちゃん、得意だよね。」


レシラ「まあ、教わっていたというか。

    聞いたことがある言葉、という感じですわ。

    あとは、直感でしょうか。」


舞「直感? まあそっか。」


舞さまは、引っかかりつつも

納得いただけたように思えました。


が、質問は続きます。


舞「・・・ん? 聞いたこと? あれ?

  どういうことなんだろ?」


舞「英語、日本語もか。妖精の世界に

  なんで英語とか、日本語があるんだろ。

  やっぱりなんか変な気がする。」


たしかに、ちょっと変な感じはするかも。

そんなことまで、考えたことは無かったですが。


レシラ「自然に似た言葉になった、とか?」


舞「うーん・・・。

  でも、ここまでまるっきり

  同じ言葉になるかな。」


レシラ「もしくは、昔は人間界と交流があった

    なんて可能性も考えられるかもしれませんわ。」


舞「あー。そういうのはあり得るかも。」


舞「あ、話が脱線しちゃった。

  聞きたかったのは、お姫様の暮らしって

  どんなのかなって。」


舞「もうちょっと、きらびやかな話を

  聞きたかった。」


きらびやかじゃなくて、悪かったですわね。


と、内心では、若干の悪態をつきながらも

わたくしは、答えます。


レシラ「・・・世間一般よりかは

    確かに、豪華だと思いますわ。」


舞「そうなんだ。

  お城にやっぱり、住んでるの?」

  

舞「お姫さまのイメージっていうと

  ドレスとか、豪華な食事とか。」


レシラ「そうですわね。王宮で。

    服に関しては、仕立て専門の妖精が

    確かにいますわ。」


レシラ「今は洗濯機に忍ばせる毎日ですが。」


舞「洗濯機で悪いね。」


レシラ「ただ、お城、王宮といえど

    食べ物は、人間界の方が豪華だと思いますの。」


舞「そうなの?」


レシラ「ええ。まあ、味は好みでしかないと思いますが

    いわゆる、"りんご"だけとか。

    そんな感じの食事が多いですわ。」


舞「りんごだけ? どういうこと?」


レシラ「ほら、サイズの問題ですわ。

    りんご一個あれば、結構な食事が

    まかなえますもの。」


舞「サイズの問題?

  じゃあ、りんごの大きさは、人間界と同じなの?」


レシラ「ええ。だいたい。」


舞「そこは、妖精サイズじゃないんだ。

  栄養的にも、大丈夫なのかな。」


レシラ「大丈夫だと思いますわ。

    ふつうの妖精は、そんな感じで

    数百年は無事ですもの。」


舞「ますます、よくわかんないな・・・。」


舞「じゃあ、料理はしないってことか。

  お菓子とかは、人間界に来て

  はじめて食べたんだ。」


レシラ「そういうわけでも、ありません。

    ・・・お菓子は、昔、いえ、今もか。

    たまに、作ってもらっていますわ。」


舞「作ってもらってる?

  お母さんに?」


レシラ「あー、いや、その。

    うーん・・・。」


レシラ「召使い、いや、うーん。

    召使いに、でしょうか。」


舞「・・・なんか、歯切れ悪い?

  私に、でしょうかって聞かれても。」


わたくしが困っていると

舞さまが、話を変えてくださいました。


舞「まあいいや。レシラちゃん。

  じゃあ、お菓子づくりって、したことある?」


レシラ「・・・ありますわ。」


舞「えっ。絶対したことないと思った。」


レシラ「それこそ、召使い、と一緒に。」


舞「じゃあいっか。

  一緒に作ろっかな、とも思ったけど。」


舞さまにそう言われて。


わたくしは、いつもなら「じゃあやりますわ」とでも

言おうとするものですが。


今日は、そんなことを言う気が起きませんでした。

なんだか、ひどく懐かしく思えてしまって。


舞「・・・大丈夫?

  なんか、元気ない?」


レシラ「えっ。」


わたくしは、はっと気を取り直すと

舞さまを見つめ直しました。


舞「妖精の世界、懐かしい?」


わたくしのことを、見透かすように

舞さまは語りかけます。


でも、わたくしの本当の気持ちとも

ちょっと違っています。


妖精の世界は、懐かしくはないのです。


レシラ「妖精の世界は、正直、まったく

    懐かしくないのですが・・・。」


レシラ「・・・その、あの。

    お菓子が、食べたいな、と。」


舞さまは、少し考えて話し始めます。


舞「そかそか。

  食べたいやつじゃないかもしれないけど。

  チョコレート、食べる?」


レシラ「・・・ええ。いただきますわ。」


わたくしは、チョコレートを口につけます。


舞「あと、やっぱり、一緒にお菓子作ろっか。」


レシラ「ええ。」


わたくしは、食べながら生返事をします。


レシラ「・・・ええ?」


舞「一緒に、買い出しに行こ。」


舞さまは、強引に、わたくしを肩に乗せました。


わたくしは、チョコレートを食べそびれました。


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